最新記事

格差

貧困家庭の女子が人生を見限る「自己選抜」......「大学には行かれない」「子どもは欲しくない」

2019年2月13日(水)15時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

貧困がどう作用するかは男子と女子で大きく異なる Toru-Sanogawa/iStock.

<低所得家庭の子どもの将来に対する展望を見ると、進学や結婚を諦める「自己選抜」が男子よりも女子に強く作用している>

2014年度から高校就学支援金制度が施行され、高校生がいる家庭には月額9900円が支給されている。私立校の場合、家庭の所得に応じて額が上乗せされる。この制度の効果によるものか、経済的理由による高校中退者はかなり減ってきている。

その一方で、アルバイトをする高校生は増えてきている。家計が厳しくなっているが、上記の支給額では学校の授業料しかカバーできないので、生活費を稼ぐ必要に迫られているのだろう。2016年の総務省『社会生活基本調査』によると、平日の高校生のアルバイト実施率は7.9%となっている。家庭環境とも相関しており、年収300万円未満の家庭に限ると14.3%(7人に1人)にもなる。なお、男子と女子で分けた比較グラフ<図1>を見ると驚くべき傾向が出てくる。

maita190213-chart01.jpg

高校生のアルバイト実施率は低所得家庭で高いが、それは女子で顕著だ。年収300万円未満の家庭の女子生徒でみると、アルバイト実施率は30.3%にもなる。同じ階層の生徒でも、男子とは大変な違いだ。

低所得層の女子にあっては、大学進学を早期に諦める「自己選抜」が作用するのかもしれない。貧困という生活条件がどう作用するかは、男子と女子では異なるようだ。男子では、逆境から抜け出そうというバネになり得るが、女子では自分の将来を閉ざす「自己選抜」という名の蓋になる。子どもに対する親の教育期待(どの学校まで行かせるか)にも性差があるが、余裕のない家庭ではそれは大きいだろう。

貧困家庭の子どもに対する支援が盛んになっているが、経済的支援だけでは、こうしたジェンダーの問題は解決できそうにない。困窮家庭の女子生徒に対しては、認知の歪み(自己選抜)を正したり、奨学金の情報を積極的に提供したりするなど、当人との血の通ったコミュニケーションが求められる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中