コラム

DaiGo炎上問題、「問題提起」だろうと「個人の感想」だろうと許されない意見はある

2021年08月15日(日)15時48分

こうして、無敵の体系が誕生する。経済力がありチャンネル登録者数が多い者の発言は、そうでない者の発言に対して常に優越する。発言の内容が評価されず、発言者の心理だけが判断材料になるなら、必然的にそうなるのだ。権力を背景としたディベート技術に長けた者がインフルエンサーとして幅を利かせる社会で、それを学んだ若者たちが価値を問わず利害だけを求めて「自己研鑽」に走っていく。これは一種のディストピアではないだろうか。

無敵の体系を持つ者たちの相互支援システム

DaiGo「炎上」を受けて、似たような無敵の体系の持ち主である堀江貴文が、批判者は内容はどうでもよくて単に叩きたいだけという趣旨の「擁護」を行った。これもまた「同類」が炎上しているときに、よく行われる支援の手法だ。ここでまた批判者の「心理」にスポットが当てられている。炎上の内容を問題にするのではなく、炎上という事象そのものを問題にするのだ。

ゴシップ的な悪意ある炎上と、炎上してしかるべき炎上は区別されるべきだ。しかしこのような価値の体系が崩壊した視点からは、その両者を区別することができない。個人に対する集中攻撃、「吊し上げ」はよくないという一般論めいたことで問題を相対化・矮小化し、何かを言った気になっているだけなのだが、こうした「炎上批判」もまた俗情にはウケやすいという問題もある。

DaiGo「炎上」事件で見えた光明

8月13日夜、DaiGoは生配信を行い、今回の発言について謝罪し、自分の無知が原因だったとして、今後支援団体などに教えを請う意思を示した。しかし困窮者も頑張っているから差別してはいけないという理解は、差別されても仕方がない人々もいるという余地を残す。本来は、「ホームレス」も生活保護受給者も、DaiGoのために何も証明する必要はない。そもそも根本的に反省すべきは、無知ではなく、前述したような価値の相対化と能力主義によって差別思想が肯定されてしまうことなのだ。14日、生活困窮者支援団体4団体は、DaiGoの「反省と謝罪は単なるポーズの域を出ていない」という声明を出した。その夜DaiGoは自身の謝罪を撤回し、改めて謝罪しなおした。

とはいえ、まったく評価できない「謝罪」だったとしても、当初は強気の態度だったDaiGoを「謝罪」に追い込むほど強い批判が今回SNS等で巻き起こったのは一安心だった。差別思想・優生思想は「ひとつの意見」としても尊重されないということを示すことができたのは、よいメッセージとなる。この事件を何かの「きっかけ」とするならば、価値を相対化し、何でも「ディベート」の俎上にあげる最近の風潮を見直すきっかけにするべきだろう。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米経済、イラン情勢の打撃なし 海峡通航徐々に再開と

ワールド

EXCLUSIVE-イラン新最高指導者、米との緊張

ビジネス

独ZEW景気期待指数、3月は-0.5に急低下 中東

ビジネス

JPモルガン、英利下げ時期の予想を先送り 27年第
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在の価値でどれくらい? 誰が何のために埋めた?
  • 3
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 8
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 9
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 10
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story