コラム

オバマの「ナイジェリア飛ばし」騒動

2009年07月13日(月)16時29分

 それは起こるべくして起きた。バラク・オバマ大統領の無難でささやかなガーナ訪問は、ほかの国を不快にさせてもおかしくなかった。来てくれなくて侮辱されたと感じるのは、今もオバマの家族がいるケニアだと予想するのが普通だろう。だがもっと自尊心が傷つけられたアフリカの大国がある。ナイジェリアだ。

 オバマのガーナ行きが発表された途端、現地の新聞が疑問を呈し始めた。ナイジェリアはアフリカで最も人口が多い。産出する石油は概ねアメリカ人の消費に使われる。経済的にも政治的にも地域のリーダーである。それなのに、なぜオバマはナイジェリアの近くにある小さな国を選んだのだ?

 答えは非常にはっきりしている。市民の多くがそう結論付けた。米大統領の訪問という栄誉を受ける前に、ナイジェリアは国内情勢を立て直さないといけないのだ。政府の腐敗、選挙の不正、そして石油生産地域における反政府活動──ナイジェリアは多くの点でガーナとまったく違う国である。

 あるナイジェリア人はBBCのウェブサイトに「ナイジェリアを鼻であしらっても構わない。この国を好きなように操っている者にとって警鐘になる」と書いている。同国で最も尊敬される知識人ウォール・ソインカ(ノーベル賞劇作家)でさえ、オバマの判断に同意。「ナイジェリアはその栄誉に値しない」と、首都アブジャでの集会で語った。

 ナイジェリア政府の反応はどうか。デーリー・トラスト紙によると、「お偉い方が被害妄想に取り付かれている」。同国外交委員会のトップはBBCに対し、オバマがナイジェリアに懸念を抱いているなら、謎めいた外交上の合図を送るよりもアブジャに来て直接それを表明すべきだ、と語った。一方で、お粗末なナイジェリア外交のせいでオバマ来訪を実現できなかったという批判も多い。

 オバマがより民主的で平和なガーナを訪問することで何らかのメッセージを送ろうとしているのなら、少なくとも物議をかもすことには成功しているようだ。もちろん、今回のナイジェリア飛ばしには別の理由があったと信じる人もいる。


 考えてみればオバマはバスケットボールをプレーするのが好きだ。仮に彼が滞在中にヤラドゥア大統領と1対1で試合をしようと誘い、大統領が礼儀上応じたとする。でもヤラドゥア大統領はバスケットボールをしない。するのはスカッシュだけなんだ。


──エリザベス・ディッキンソン
[米国東部時間2009年07月10日(金)11時32分更新]


Reprinted with permission from FP Passport, 13/7/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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