最新記事

台湾

アメリカはなぜ台湾を支援するのか──背後に米中ハイテク競争

2021年4月25日(日)19時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
TSMCのロゴ

半導体ファウンドリ世界最大手TSMC Tyrone Siu-REUTERS

アメリカの台湾融和政策は、台頭する中国を抑え込むことが主目的だが、中でもハイテク競争において中国に負けてはならないという強い動機がある。世界最大手の台湾の半導体ファウンドリTSMCを中心に考察する。

トランプ政権が台湾に手を差し伸べたのはファーウェイへの制裁が始まり

そもそもトランプ前大統領が台湾に温かなエールを送り始めたきっかけは、何としても中国のハイテク国家戦略「中国製造2025」を潰してやりたかったからだ。中でも5G で世界最先端を行っていたファーウェイを潰したかった。

しかし、あの手この手を使ってもファーウェイがなかなかへこたれない。

そこで命綱のファーウェイの半導体チップ製造を請け負っているTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company=台湾積体電路製造=台積電)をアメリカ側に付けることにした(「積体電路」は日本語の「集積回路(Integrated Circuit)」という意味)。

基本的なご説明をすると、すべてのハイテク製品には半導体が必要だが、技術の進歩とコストの膨張などに連れて、半導体チップを製造する企業は自社で製造ラインまでをも保有することが困難となり、半導体の回路設計のみを行う企業(ファブレス=製造工場を持っていない。デザインだけを担う企業)と、その設計図(デザイン)を基に半導体チップを製造する企業(ファウンドリ)に分かれるようになっている。

たとえばファーウェイを例にとるならば、ファーウェイにはハイシリコンという半導体チップを設計するファブレスがあり、そこで設計されたデザインを基に、スマホなどのハイテク製品に使える半導体チップを製造してくれるのがTSMCであった。

このTSMCが「ファーウェイのために半導体チップを製造しません」と言ったら、ファーウェイはお手上げだ。しかしTSMCは「愛国主義者」という国家機関ではなく「商売人」だから、「商売をして儲かる相手と取引をしたい」。アップル同様、TSMCにとってファーウエイは「儲けさせてくれるお得意さん」だった。

そこでトランプは台湾の蔡英文(中華民国)総統に対してエールを送り、台湾にあるTSMCを中心としたファウンドリに「アメリカを向きましょう」という政策を進めるように台湾政府にエールを送り始めたわけだ。

アメリカには国防予算の大枠を決めるための「国防権限法」というのがあるが、2018年8月に成立した19会計年度「国防権限法」は、中国に情報や技術が流出するのを防ぐため、輸出規制を強化したり対米投資の審査を厳しくしたりする対中強硬策を多く盛り込んだ。こうしてファーウェイを含むエンティティ・リストが出来上がったいったわけだが、それでも完全にTSMCなどをアメリカ側に取り込むには、「台湾ごと」アメリカを向いていないと困る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委、数日内にドイツを提訴へ ガス代金の賦課金巡

ワールド

日米との関係強化は「主権国家の選択」、フィリピンが

ビジネス

韓国ウォン上昇、当局者が過度な変動けん制

ビジネス

G7声明、日本の主張も踏まえ為替のコミット再確認=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    対イラン報復、イスラエルに3つの選択肢──核施設攻撃…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中