コラム

誰が「太陽光バブル」を生み出したのか

2014年10月29日(水)17時26分

 10月に入って、各電力会社が太陽光エネルギーの新規買取を中止し、各地でトラブルが起こっている。この最大の原因は、次の図のように今年に入って太陽光設備が倍増し、設備ベースで約7000万kWに達したからだ。これは原発70基分にのぼる膨大な設備である。

太陽光の導入量と認定量(経産省調べ)

太陽光の導入量と認定量(経産省調べ)


 経済産業省によると、この発電設備がすべて稼働した場合、固定価格買い取り制度(FIT)による賦課金は毎年約2兆7000億円、消費税の1%以上だ。このコストは今後20年続くので、総額は50兆円以上にのぼる。電力利用者の超過負担は1世帯あたり毎月935円になる。

 この原因は単純である。電力会社が買い取る価格が高すぎるのだ。2012年7月から施行された再生可能エネルギー特別措置法(再エネ法)では、それまでの余剰電力の買い取りではなく、全量買い取りを電力会社に義務づけた。これによって電力会社は電力の質に関係なく、太陽光発電所からの電力をすべて買い取ることになった。

 問題は、その買い取り価格である。当時、孫正義氏(ソフトバンク社長)は、「ヨーロッパ並みの価格」として40円/kWh以上を要求したが、これは太陽光バブルが崩壊する前の価格で、当時すでに買取価格は20円台だった。しかし調達価格等算定委員会の植田和弘委員長は「施行後3年間は例外的に利潤を高める」と公言し、40円(非住宅用)という単価を決めた。

 このように高値をつけたため、太陽光発電所の建設ラッシュが起こった。何しろどんな不安定な電力でも電力会社がすべて買い取ってくれるのだから、リスクはゼロである。その後、単価は2年目は36円、3年目は32円と下がったが、これでもヨーロッパの2倍だ。太陽光パネルの単価は大規模な設備なら20円/kWh程度まで下がるので、32円なら大幅な利益が出る。

 このためソフトバンクだけでなく、ゴールドマン・サックスなどの外資が参入して、各地に「メガソーラー」と呼ばれる大型の太陽光発電所を建設した。「リスクなしで高利回り」をうたい文句にして、個人から金を集めて太陽光に投資する仲介業者も大量に生まれ、図のように2年目の最後(2014年3月まで)に駆け込みで申請が殺到したのだ。

 ヨーロッパでは太陽光バブルが崩壊し、全量買い取りは廃止された。しかし菅首相が「私をやめさせたかったら再エネ法を通せ」と政権の延命に利用し、孫氏と一緒になって運動の先頭に立ったため、業者の「言い値」のまま法案が通ってしまったのだ。

 役所もそれに迎合した。原発事故で悪役のイメージの強くなった経産省は「クリーンエネルギー」でイメージアップをはかり、財務省もチェックしなかった。この賦課金は政府ではなく、電力利用者が負担するからだ。電力会社も超過負担は利用者に転嫁できるので、あまり抵抗しなかった。

 このように民主党と経産省と財務省と電力会社が利用者にただ乗りした結果、高い利益率を20年保証する制度ができてしまった。おかげでメガソーラーが急増して電力会社の受電設備が足りなくなり、各地で新規の買い取りが凍結されているのだ。今の太陽光発電所にすべて対応するには、全国で最大24兆円の設備投資が必要だともいわれている。

 おまけに、太陽光発電所は原発を減らす役には立たない。太陽エネルギーは夜間や雨の日はゼロになるので、バックアップの発電所が必要だから、原発70基分というのは実は正しくない。ドイツではFITで電気代が2倍になったが石炭火力が増え、二酸化炭素排出量は大幅に増えてしまった。

 ただでさえ原油高と原発停止と円安で電気代が50%以上も上がる日本で、さらにFITで10%以上の負担をかけたら、製造業は日本から出て行き、貧困層の負担は大きくなり、日本経済は大きな打撃を受ける。幸い実際に稼働している発電所はまだ15%程度なので、政府は緊急にFITを一時停止し、制度を見直すべきだ。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story