最新記事

日韓関係

関係をこじらせる日韓両国がいま認識すべきこと

OVERLOOKED FACTORS

2019年1月31日(木)17時15分
クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)

韓国に厳しい態度で臨む安倍政権だが ATHIT PERAWONGMETHAーREUTERS

<国内の理屈だけで凝り固まらず、互いにより広い視点で解決策を探るべき>

今、日韓関係が危機に瀕している。

「日韓葛藤」は以前にもあったが、かつては北朝鮮という「共通の敵」があり、アメリカという仲裁者がいた。だが状況が一変した現在、両国は冷静に、非難の前に見落としている点はないか考えることから始めるべきだろう。

まず韓国側を見ていこう。文在寅(ムン・ジェイン)政権の最重要課題は北朝鮮問題だ。北との融和を通じて「平和と繁栄の北東アジアの時代」を切り開く、素晴らしい方向だ。問題は、そこには日本の協力と支持が必要不可欠という点で、現在の不和はせっかく訪れた「韓半島の春」にも嵐を呼びかねない。

文大統領は日本の理解を得るべく訪日して安倍晋三首相と会談を行い、日本国民向けに韓国の立場や意思を表明するパブリック・ディプロマシーを展開すべきだった。このままでは南北融和を進めながらも日本とは歴史問題でこじれ、結果、いずれの成果も得られなかった盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の二の舞いになりかねない。対北太陽政策の前に、日本大衆文化の開放と未来志向の日韓関係を宣言した、金大中(キム・デジュン)政権の対日外交を想起すべきだろう。

また韓国は日本の力を過小評価せず、ナショナリズムを刺激すべきではない。アメリカをはじめ「国際社会」は日本の味方であるという厳然たる現実と、憲法改正という政治目標のため、中国・北朝鮮に代わる「新たな敵」を安倍政権が必要としている構図を理解しなければならない。

レーダー照射問題については、日本が先に外交青書で「価値と利益を共有する最も重要な隣国」という表現を削除し、歴史問題でも強硬姿勢なので、韓国には「売られたケンカ」の意識がある。ただ、それでも感情的に対処すべきではない。あくまで対北同様に寛容の姿勢を持ち、「何にでも難癖をつける韓国」というイメージを払拭すべく、対日批判でも「選択と集中」が必要だ。

文政権の敵は日本より大企業

次に日本側が見落としている点だ。まず、日本には徴用工問題に関して文政権が判決に介入したという認識があるが、そもそもこれは文政権が提起した問題ではない。判決は既に朴槿恵(パク・クネ)政権のときに下される可能性があった。だから、司法に不当に政治介入したとして韓国でいま問題になっているのは朴政権のほうだ。司法部への批判が高まっている渦中に出された判決に、文政権が介入できる状況ではなかった。

韓国での社会的文脈も理解すべきだ。慰安婦問題は「♯MeToo」運動の高揚とも関連がある。女性の発言力と人権意識が高まるなか、慰安婦問題は歴史問題から女性の人権問題に進化した。

徴用工についても、「大企業vs労働者」という視点がある。今の韓国では大企業の横暴が暴露され、最低賃金の引き上げなど労働者の権利意識が高まっている。先頃、非正規雇用の若き労働者が火力発電所の事故で亡くなる事件が大問題になり、その後の徴用工裁判への世論に影響を与えている。キャンドル革命を通じて誕生した文政権は「反日」というより、女性と労働者のに対して厳しい姿勢を取ることを強く期待されている政府と理解すべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中