コラム

MISIA、ヒゲダンの歌声「1/fゆらぎ」に見る、音楽と科学の深い関係

2021年11月23日(火)11時25分

ゆらぎには何種類もあり、1/fゆらぎはパワー(周波数密度)が周波数fに反比例するようなゆらぎです。

現在では、生物の神経細胞が発射する電気信号の間隔が1/fゆらぎをしていることが分かっています。さらに、人の生体リズムにも1/fゆらぎが存在すること、外部から五感に訴えられた時に1/fゆらぎが快適と感じることも判明しています。たとえば、小川のせせらぎ、そよ風、蛍の発光、ろうそくの炎の揺れなどは1/fゆらぎをしていて、体感すると心地よく感じると言われています。

日本の1/fゆらぎ研究の第一人者である武者利光・東京工業大学名誉教授は、「自然界の1/fゆらぎ音を聞くと、脳内がα波の状態になり、リラクゼーション効果をもたらす」と説明します。以前から「聴くと癒やし効果がある」と言われていたモーツァルトの室内楽『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』を分析すると、1/fゆらぎをしていることも検証されました。

最近は「1/fゆらぎの声の持ち主」も話題になっています。紅白歌合戦に関連のあるアーティストでは、美空ひばり、MISIA、宇多田ヒカル、徳永英明、平井堅、Official髭男dismのボーカル・藤原聡らの歌声が1/fゆらぎをしていると分析されています。

癒やしに関する音の要素として、ヒーリング音楽では「528ヘルツ」が強調されていることもあります。一部の生物学者や音楽療法は「528ヘルツはDNAを修復する」と主張します。断言するには、さらなる科学研究と再現性の確認を待たなければならないでしょう。

もっとも、528ヘルツはグレゴリオ聖歌で使われる音階に現れる周波数です。長年に渡って人々の癒やしの記憶と結びついた音階と言えるのかもしれません。

緊急事態速報チャイムの条件とは

癒やしや気分をよくするために聴くのが音楽ですが、「人を緊迫させる音」を追求して社会に役立てた人もいます。

今秋は緊急地震速報の発表が多発しました。2021年は昨日11月22日までに9回発表されていますが、うち6回が9月以降です。

NHKが使っている緊急地震速報を知らせるチャイムは、音響学や福祉工学を専門とする伊福部達・東京大学名誉教授に作成を依頼したものです。東日本大震災の第一報の前にも流れたこのチャイムは、①緊急性を感じさせるが不快感は与えない、②聴覚障がい者や高齢者などにも聞こえやすい、③すでに使われている効果音やアラーム音などに似ていないなどを考慮して作られました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英財務相、11月26日に年次予算発表 財政を「厳し

ワールド

金総書記、韓国国会議長と握手 中国の抗日戦勝記念式

ワールド

イスラエル軍、ガザ市で作戦継続 人口密集地に兵力投

ビジネス

トルコ8月CPI、前年比+32.95%に鈍化 予想
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story