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米ロ関係

サイバー攻撃は従来と別次元のリスクに...核戦争の引き金を引く可能性は十分ある

FROM CYBER TO REAL WAR

2021年7月16日(金)11時53分
トム・オコナー(本誌外交担当)、ナビード・ジャマリ(本誌記者)、フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

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サリバン米大統領補佐官はサイバー攻撃に対してあらゆる行動を準備していると強調 LEAH MILLISーREUTERS

米情報機関がそうした策略を見抜けたとしても、ロシアが攻撃を仕掛けたように見えれば、それが米軍のロシア侵攻を正当化する口実になることもあり得る。実際、イラクは01年の9.11同時多発テロに全く関与していなかったが、当時のジョージ・W・ブッシュ政権はテロを口実に03年にイラク侵攻に踏み切った。

開戦のきっかけとなった敵の大規模な攻撃はアメリカ人の記憶に刻印されている。1941年12月7日、ハワイのパールハーバーの米軍基地に対する旧日本軍の奇襲攻撃が、アメリカを第2次大戦参戦に駆り立てた。01年の9.11テロへの報復としてアメリカは同年アフガニスタンを攻撃。20年続いた紛争は今ようやく終わりを迎えようとしている。

アメリカの対ロ瀬戸際政策の前例となったのは、1962年のキューバ危機だ。「当時は1つ間違えば核戦争になりかねなかった」と、サイバーセキュリティー保険会社レジリエンスのラージ・シャー会長は言う。

サイバー攻撃をきっかけに本格的な戦争が起こり得ることは、外交の世界では共通認識になっている。6月14日に行われたNATO首脳会議では、「度重なる重大な悪意のあるサイバー活動の影響は、特定の状況下では武装攻撃に相当すると見なされる」との共同声明が発表された。

従来の軍事攻撃と同列に扱う可能性

声明はまた、「悪意あるサイバー活動への懸念を共有し、各国の対策と対応について情報交換するとともに、可能な集団的対応を検討する」など、サイバー領域での防衛協力を一段と強化することもうたっている。

声明は「必要とあれば、われわれは危害を加える者に代償を払わせる」とも警告している。「われわれの対応は必ずしもサイバー領域に限定されない」

場合によっては、サイバー攻撃を従来型の軍事攻撃と同列に扱う可能性があることも確認された。「サイバー攻撃が、いかなるときに(個別的または集団的自衛権の行使を定めたNATO条約)第5条の発動につながるかは、個別のケースに応じて、北大西洋理事会(NATOの最高意思決定機関)が決定するものとする」と、声明は述べている。

サイバー攻撃に対する物理的な報復攻撃は、既に現実に実施された先例がある。アメリカは15年8月、過激派組織「イスラム国」(IS)のサイバー機能を標的に空爆を行い、当時ISの事実上の「首都」だったシリアのラッカにいたハッカーのジュナイド・フセインを殺害したのだ。

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