コラム

再び悪化したニューヨークの治安、強硬策は成功するのか?

2022年02月23日(水)14時00分

暖かい空間を求めてホームレスが地下鉄の車内に滞留している David 'Dee' Delgado-REUTERS

<オミクロン株の感染拡大が収まらないなか、ニューヨークの治安が再び悪化している>

2020年2月に新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以来、ニューヨークの街は治安の悪化に悩まされてきました。まず2020年には、感染対策失敗により地下鉄におけるクラスターが発生、鉄道職員などに数多くの犠牲者が出ました。これを受けて地下鉄の利用者は激減し、そこへクラスターを発生させた刑務所から一時出所した受刑者がホームレス化して滞留することでさらに治安が悪化しました。

2020年の夏からは、荒れた世相を反映してか、無差別の銃撃事件が頻発するようになりました。また、2021年になると、大規模な万引き犯が横行しました。経済的に追い詰められた結果ということから、罪悪感が欠落した中での犯行が相次ぎ、これも街の治安を悪化させたのでした。

一連の治安悪化に拍車をかけたのは、警察力の弱体化でした。主な要因としては自身の感染や濃厚接触によって多くの警察官が前線から離脱したためでした。警察官のワクチン接種率が極端に低いこともその背景には指摘されています。結果的に、警察のトータルな治安維持能力が失われたことが犯罪の拡大につながっており、全てがコロナ禍に端を発した悪循環です。

横行するアジア系へのヘイト犯罪

一方で、2020年以来、ニューヨーク市ではアジア系をターゲットとしたヘイト犯罪が横行しています。この「アンチ・アジアン・ヘイト」ですが、一部にはカナダやアメリカ南部などで横行している右派の「反マスク・反ワクチン」運動などとの関連を指摘する意見があります。ですが、ニューヨークにおけるアジア系への暴力事件については、思想的な背景は薄いようです。

むしろ、ニュースや社会問題、あるいはコロナ禍に関する適切な情報にリーチできない層が、コロナ禍における困窮などの延長で、「白いマスクをしているアジア系を見ると、自分達に危害を与えてきたウィルスに見えてしまう」という病的かつ衝動的な犯行が多いようです。

そんな中で、ニューヨーク市内の治安は2021年の秋には一旦少し沈静化の動きを見せていました。デルタ株の「波」が沈静化すると共に、多くの企業がオフィスを再オープンして通勤者の姿が戻ってきたこと、またブロードウェイの興行が再開されたこともあり、とにかく街にも地下鉄にも人が戻ったことが大きな要因です。また、当局がワクチン接種を拒否した警官を追放するという厳しい姿勢に転じたことも効果があったと見られています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story