コラム

党議拘束の緩和こそ政治改革の決め手

2024年04月17日(水)15時00分

党議拘束のために国政の場で自由な政策議論ができなくなっている Kazuki Oishi-REUTERS

<この制度は日本政治に大きな弊害を引き起こしている>

今週16日、離婚後の「共同親権」を認めることなどの改正点を含む、民法改正案が衆議院で採決されました。法案は可決して衆院を通過しましたが、この採決の際に自民党の野田聖子議員は賛成を意味する起立をしませんでした。このように、議場における採決の際に、党の決定に従わないことを俗に「造反」といいます。また、議員に対して党の決定の通りに採決に参加させることを、党議拘束と良います。

この党議拘束ですが、別に法律で決められているわけではありません。ですが、非常に強い縛りとして各議員を締め付けています。通常は、党議拘束に反して造反すると、党の懲罰委員会などから罰を受けることとなり、最悪の場合は除名されることもあります。保守的な自民党だけの風習かというと実はそうではなく、野党のほとんども基本的に同じです。

この党議拘束ですが、時には緩和されることがあります。例えば、2009年に、「臓器移植に関する法律」の改正案が国会において採決されたときのことです。日本共産党を除いた各政党は、この改正案の賛否に関しては、投票に際して党議拘束を外しました。左右対立など従来型の対立軸とは全く別次元の、つまり議員の個人的な人生観や生命観が問われる問題だということで、各党派が自由投票としたのでした。

この前例に照らしますと、今回の民法改正なども党議拘束を外しても良さそうだったのですが、何らかの意図が政権中枢にあったのか、造反は野田議員だけでした。

国政選挙で政策論争ができない

この党議拘束ですが、この制度があることで大きな弊害があるという見方が可能です。2つ指摘しておきたいと思います。

1つは、個々の議員による政策決定への参加が密室化するということです。例えば、自民党でも野党でも、当選回数によって発言力に違いがあり、党内の密室審議では新人議員の声はなかなか通りません。そうなると、仮に大物議員を出している選挙区には利益誘導ができるが、無名の新人議員の地元の意見は通りにくいということが起きます。これも全く不合理な話です。

つまり、国政選挙においては与野党の対立軸というような全国レベルの大雑把な論争以外には、政策論争ができないのです。無能な候補であるか、有能で誠実な候補であるかということは、小選挙区の場合はほとんど問題になりません。個々の議員が政策を語っても、それは議場における投票行動においては党議に上書きされるからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下

ワールド

米大統領とヨルダン国王が電話会談、ガザ停戦と人質解

ワールド

ウクライナ軍、ロシア占領下クリミアの航空基地にミサ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 7
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 8
    もろ直撃...巨大クジラがボートに激突し、転覆させる…
  • 9
    日本人は「アップデート」されたのか?...ジョージア…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 6
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story