コラム

100年の時を経て「週40時間労働」が再び労働運動の争点になっている理由

2026年03月19日(木)18時20分
カリフォルニア州のストライキの様子

カリフォルニア州のストライキの様子 Matt Gush-shutterstock

<週40時間勤務が争点になっている理由は100年前とは異なるが>

[ロンドン発]「ビッグボックス・ストア(大手小売店)」で6カ月間働き、2024年に小説『店員募集(筆者仮訳、原題:Help Wanted)』を出版したアデル・ワルドマン氏らが米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿(3月18日付)で週40時間労働の確保を求めている。

【動画】週40時間労働は変えるべき?

19世紀後半、1日8時間労働が労働運動の中心的スローガンとなった。1886年、米シカゴのストライキ「ヘイマーケット事件」をきっかけに「1日8時間、週48時間」という規範が社会に広がった。1926年、米フォード・モーターは自発的に週5日40時間制を導入した。


週40時間労働は労働者を雇用主の酷使から守る「天井」だった。産業構造は製造業からサービス・小売業に重心を移す。安定した雇用を生んだ製造業と異なり、サービス・小売業では需要が目まぐるしく変わるため「人員」のジャストインタイム・スケジューリングが導入された。

労働者をパートタイムに留め置くインセンティブ

21世紀に入りシフト管理ソフトウェアが普及。ほぼリアルタイムで「最適な人員配置」を算出できるようになり人員の過剰配置が排除された。米国では雇用主が提供する医療保険の義務はフルタイムに紐づくため、労働者をパートタイムに留め置くインセンティブが働いた。

このようにして週40時間は「天井」から「到達不能な目標」へと変質した。同じ「週40時間」が守ろうとする労働者の権利は完全に逆転した。今問われているのは「なぜ週40時間きちんと働かせてもらえないのか」という労働者の切実な訴えだ。

英国でも08年のリーマンショック後、雇用主が最低限の労働時間を一切保証しない「ゼロ時間契約」が問題化した。英ランカスター大学の分析ではゼロ時間契約労働者は123万人に達し、過去最高を記録した。労働搾取を規制するため昨年末にようやく雇用権利法を成立させた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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