コラム

再び悪化したニューヨークの治安、強硬策は成功するのか?

2022年02月23日(水)14時00分

ところが、2022年に入って再びニューヨークの治安は悪化しています。今回は、あらためて地下鉄の治安悪化が問題になっています。原因はオミクロン株の感染拡大です。

現在のアメリカでは、感染が拡大しても強力なロックダウンはできなくなりました。社会活動を強制力によって止めると、反発のエネルギーが保守派に流れてしまうからです。ですからオフィスもレストランも営業はしているのですが、さすがにオミクロン株は怖いので、再び街の人通りは減っています。一時期戻っていた地下鉄の乗車率も低下しています。加えて、今年の冬は厳しい中で、暖かい空間を求めてホームレスが再び地下鉄の車内に多数滞留することとなりました。オミクロン感染拡大の中で、終夜営業の店などから追い出されたホームレスが集まってきたということもあります。

そんな中で、地下鉄の車内、あるいは駅構内におけるナイフや鈍器を使った悪質な傷害事件が増加しています。例えば2月19日(土)から20日(日)深夜にかけて市内の地下鉄では、7件の傷害事件が起きています。ほとんどの事件では、犯人はそのまま地下鉄に乗って立ち去っており未解決になっていますから、詳しいことは判明していません。ですが、被害者の証言などからは、少なくとも半数はホームレスによる犯行、しかも悪意というよりも衝動的な犯行と見られています。

元警察官のアダムズ市長

刃物を使った犯罪が増えているのは、市警察が銃の取り締まりに力を入れているためのようですが、こうした刃物を使った暴力はアジア系へのヘイト犯罪にも使われるようになってきました。そんな中で、2月13日にはチャイナタウンに住むアジア系の女性が、犯罪歴のある男性に尾行されて刺殺されるという事件が発生して、全市を震撼させました。

そんな中で、1月に就任したニューヨーク市のエリック・アダムス市長は、自身が警察官の出身であり、また選挙戦において治安確保を最大の公約に掲げていたこともあって、対策を直接指揮することになりました。アダムス市長は、2月末の週末から、地下鉄における徹底した取り締まりを行うと宣言しています。

市長は、「地下鉄は目的の駅で下車するものであり、継続して乗車することは許さない」として「ホームレスはシェルター(保護施設)に強く誘導する」としています。問題は、ニューヨーク全市の地下鉄内で1000人を超えるというホームレスの人々は、犯罪予備軍でないグループも含めてシェルターへの強制収容など、警察の活動に協力する姿勢が弱いことです。強硬策が成功するか、アダムス市長の手腕が問われています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金融当局、銀行規制強化案を再考 資本上積み半減も

ワールド

北朝鮮、核抑止態勢向上へ 米の臨界前核実験受け=K

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story