コラム

バイデンとトランプ、それぞれの苦境

2024年05月08日(水)15時40分

暴力的な学生デモは保護されないと演説で語ったバイデン Nathan Howard-REUTERS

<大学デモへの対応に苦慮するバイデン、不倫口止め裁判が想定以上に悪影響を及ぼしそうなトランプ>

11月の投票日まで半年を切りました。既に民主党は現職のバイデン候補、共和党は復職を狙うトランプ候補が過半数の代議員を獲得して、党の統一候補の地位を確定しています。ならば、本選を前倒しにする格好で、政策論争を徹底すれば選挙戦が盛り上がるはずです。ですが、現状はそうなっていません。

それどころか、今週の両候補はともにかなり「危ない苦境」に立たされています。まずバイデンの方ですが、日に日に激化する各大学における「ガザ攻撃反対運動」に手を焼いています。先週は短い演説を行って「言論の自由は支持するが、秩序への挑戦は許さない」という原則論を示して、ある意味で中立の立場を取っていました。

ですが、今週に入ると7日(火)に「ホロコースト追悼式」に出席した際には、よりイスラエル寄りの発言に修正しています。「ガザ攻撃の犠牲をホロコーストに例えるのは許さない」、あるいは「10月のハマスのテロを過小評価してはならない」と明確に宣言したのです。これには、演説の場がユダヤ系の多いイベントであったこともあるでしょうが、イスラエルが7日になってラファへの空爆を強化していることが関係しているようです。

イスラエルは、カタールでの和平交渉に臨んでおり、ハマスの側は仲介案を受諾したのですが、イスラエルは自分たちの当初案とは違うとして拒否、攻撃を再開していました。バイデン政権は、ブリンケン国務長官を派遣して、ネタニヤフ首相にラファ攻撃を思いとどまるよう説得をしたのですが、結果的に失敗した形となりました。

ですが、国策としてはイスラエル支援の立場は変えられないなかで、バイデンとしては国内のデモを抑えるしかないのが現状です。ただ、学生たちはラファ攻撃の再開に怒っており、多くの大学では卒業式における混乱は避けられないと言われています。そんななかで、バイデンがイスラエル寄りの姿勢を取るということは、選挙戦で重要な若者票がどんどん逃げる可能性を意味します。最悪の場合は、サンダース議員やオカシオコルテス議員など左派との不和を露呈することにもなりかねません。バイデンとしては政治的に非常に難しい局面となってきました。

微罪のはずの裁判が......

一方のトランプですが、4つの訴訟の中で、最も意味が薄いとされていた「不倫相手への口止め料問題」が佳境を迎えています。この裁判ですが、微罪であるのに強引に起訴がされたとして、起訴されたことでかえって支持基盤が強固になったという評判があります。ところが、ここへ来て「そうでもなさそう」な展開になってきました。

今週7日(火)には問題の「不倫相手」であるストーミー・ダニエルズが証人として出廷、大きな話題となりました。ダニエルズは、トランプとの情事の内容を詳細に説明した一方で、情事の直後は不倫関係の口止めは特にされなかったと証言。その後、大統領選に立候補し、特に「ミスコンの楽屋でわいせつ行為をしていたのを自慢する」動画が出回った後で、口止め工作を受けたとしていました。

もしかすると、この部分が判決を左右するかもしれません。というのは、このダニエルズの証言の前の5月3日(火)に元ホワイトハウス広報部長であったホープ・ヒックスが出廷して証言していた内容と符合するからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story