コラム

プーチンが核のボタンを押す可能性がゼロではない「恐怖」が、欧米に与えた本当の影響

2023年04月04日(火)20時43分

プーチンが手にした「免罪符」

「ロシアの脅威がいかに非現実的であるかを考慮せず、ロシアの核態勢に変化が見られないこととも照らし合わせなかったため、西側諸国は『恐怖による麻痺』を招いてしまった。レッドライン(超えてはならない一線)を越えたらエスカレートさせるという脅しによって、ロシアはこれまでのウクライナでの行動に対して『免罪符』を手に入れることに成功した」

ウクライナは生き残るための武器は米欧から供給されているが、勝つために十分な武器は供給されていない。しかし、実際にロシアが核兵器使用に踏み切った場合、さまざまな制度的・現実的な障害を乗り越えなければならない。西側諸国の対応いかんにかかわらず、核のタブーを破ることは、ロシアにとっても深刻な結果をもたらすのだ。

ジャイルズ氏は「核兵器の使用はロシアだけでなく、プーチン個人にも壊滅的な影響をもたらすことを思い知らせるため、米国と西側同盟国から発信するメッセージを早急に見直す必要がある。ロシアが核の威嚇で成功を収めたら、世界中の攻撃的で自己主張が強い不正国家にとっても核による強制という考え方が正当化される」と警鐘を鳴らす。

侵攻1年を控えた年次教書演説でプーチンは米露間に残された最後の核軍備管理条約、新戦略兵器削減条約(新START)への「参加を停止する」と表明した。米国務省によると、ロシアは戦略核兵器の情報提供を停止。米紙ウォールストリート・ジャーナルは米国も情報提供の停止を決めたと報じた。軍備管理が崩壊すれば、米露の戦略核兵器は倍増する恐れがある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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