コラム

プーチンが核のボタンを押す可能性がゼロではない「恐怖」が、欧米に与えた本当の影響

2023年04月04日(火)20時43分
プーチン大統領とルカシェンコ大統領

ベラルーシのルカシェンコ大統領と会談したプーチン大統領(2月17日) Sputnik/Vladimir Astapkovich/Kremlin via REUTERS

<ベラルーシへの戦術核配備でウクライナ戦争の軍事的な現実が大きく変わることはなく、ロシアによる「メッセージ」との見方が強いが>

[ロンドン]ボリス・グリズロフ駐ベラルーシ露大使は4月2日「戦術核兵器はわれわれの連合国家の西側国境に移され、安全を確保する可能性を高めるだろう。米国や欧州で騒がれても、これは実行される」とベラルーシ国営放送で表明した。同国はリトアニア、ラトビア、ポーランドと国境を接するが、同大使は戦術核がどこに配備されるか明言しなかった。

戦術核は射程が短く、限定的な攻撃を行うため設計されている。ロシア軍が昨年2月にウクライナに侵攻して以来、北大西洋条約機構(NATO)はバルト三国とポーランドに駐留する部隊を10倍近くに増やした。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は3月31日、必要ならロシアが大陸間核ミサイルを自国に配備することも認めると述べている。

ロシアの国防問題に詳しい米シンクタンク、ランド研究所のダラ・マシコット上級政策リサーチャーはベラルーシへの戦術核配備について「慎重に事の軽重を見極める必要がある。いずれベラルーシに戦術核が配備されるが、旧ソ連製攻撃機スホイ25のためのものだ。これはロシア・ベラルーシ連合国家がより緊密化したことを表している」と筆者に語る。

230404kmr_bsn01.jpg

ランド研究所のダラ・マシコット上級政策リサーチャー(筆者撮影)

ベラルーシはロシアのウクライナ侵攻に協力し、両国は昨年3月、連合国家の統合強化を表明した。マシコット氏は「しかし戦術核配備でウクライナ戦争の軍事的な現実が大きく変わるとは思わない。これは彼らが送ってきたシグナルだ」とベラルーシへの戦術核配備はウラジーミル・プーチン露大統領が西側に送ってきた新たなメッセージに過ぎないとみる。

プーチン「米国は何十年も欧州に戦術核兵器を配置」

3月25日、プーチンはベラルーシの要請により同国に戦術核兵器を配備すると露国営テレビ「ロシア24」で発表した。プーチンは「何も珍しいことはない。米国は何十年も欧州のNATO同盟国に戦術核を配備してきた」と説明。7月1日までに戦術核の貯蔵施設を建設するという。

「戦術核を運搬できるようベラルーシの空軍機10機をすでに改造した。核弾頭搭載可能な短距離弾道ミサイル9K720『イスカンデル』をベラルーシに移し、4月3日から訓練を始める」とプーチンは宣言した。ロシアが他国に核兵器を配備するのは1991年のソ連崩壊後、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンからロシアに移管して以来、初めてのことだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story