コラム

中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日本に続々、本当の日中友好は逃亡者がつくる

2024年05月18日(土)21時02分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国

©2024 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国で活動停止中のシンガー・ソングライターが最近、日本で開いたコンサートが在日中国人の間で話題になった。古来、中国の体制転換期には文化人やエリートが日本に逃れ、高度な技術や知識を持ち込んできた。現在の様子は昔の王朝交代の時ととても似ている>

近頃、在日中国人のSNS上で最も騒がれた話題は中国のシンガー・ソングライター李志(リー・ジー)の日本ツアーだ。

1978年、江蘇省常州市に生まれ、今は南京に住む李志は、2004 年にデビュー曲「禁じられた遊び(被禁忌的遊戯)」で注目された。日常的な生活や社会をありのまま表現し、天安門事件を歌った「広場」や、独裁政権の下で思考停止した社会を皮肉る「人民は自由を必要としない(人民不需要自由)」を発表。2019年に「品行が方正でない」という理由で公式サイトや個人アカウントが中国ネット上から消え、CD棚からも撤去された。

中国国内で音楽活動がほぼ停止させられた李志の日本ツアーは日本の中華圏で話題になり、わざわざ中国から日本にやって来る李志のファンたちで東京や大阪の公演はにぎわった。

この十数年来、言論の自由を求め日本に移住する中国人は増えた。彼らはほとんどが改革開放の80〜90年代に育った文化人・エリート層で、「カネと経済」のためではなく、「自由と文化」を求めて日本へ来る。東京で中国語書店や文化サロンを開き、日本の明治維新に関する本を精読し、かつて日本に亡命した中国人政治家を研究する。当然、李志のようなシンガー・ソングライターも熱烈に歓迎する。

中国で王朝が交代するたび、中国の文化人・エリート層は近隣の日本に移住・亡命してきた。古くは5世紀、秦の遺民・秦氏(はたうじ)が中国大陸から高度な技術を持ち込み、京都、近江、淀川流域を栄えさせた。明朝から清朝へ変わる頃、儒学者・朱舜水ら多くの明の文人が江戸時代の日本に亡命し、日本の儒学を大きく発展させた。京都・宇治にある有名な黄檗山万福寺も、同じ頃に福建省出身の禅僧・隠元隆琦が創建した。明治維新後の近代日本は亡命・留学した孫文らを受け入れ、彼らは清朝打倒を目指す革命運動を指導した。

中国政府は「日中友好」という官製スローガンが大好きだが、歴史を見れば分かるとおり、真の日中友好は政権交代のときに生まれる。たくさんの文化人が中国から日本にやって来る現在の様子は、昔の王朝交代の時ととても似ている。日本で中国語の文化サロンや中国語のコンサートを開く彼らは、官製ではない本当の日中友好をつくり出せるだろうか?

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ホルムズ海峡の制限なき再開を最優先=報

ワールド

トランプ氏、対イラン「レッドライン」変わらず レバ

ワールド

ロシア、日本大使呼び抗議 ウクライナ無人機企業出資

ビジネス

FRB、利上げの可能性示唆 中東戦争のインフレ影響
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命防衛隊と消耗戦に
  • 4
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 5
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 6
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 7
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 8
    アメリカとイランが2週間の停戦で合意...ホルムズ海…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 9
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 10
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story