コラム

セレブがこぞって応援するサッカーチームって?

2015年06月15日(月)10時00分

■ファンにはあり得ない言い間違い

 キャメロンも同じようなことをしているのかもしれない。「親しみやすさ」を見せることは政治家にとって概して役に立つものだし、サッカーチームを応援することはそれを強める1つの手段だ。キャメロンにとっては、特に有益だろう。彼の保守党には、かなりの上流階級のための党という評判がつきまとっているからだ。

 ただの政治目的といえば皮肉に聞こえるかもしれないが、最近の選挙戦でキャメロンは聴衆に「ウエストハムを応援しよう」と呼びかけた。両チームのユニホームは似ているから、ついヴィラとウエストハムを混同したのか? と、みんなはいぶかった。後にキャメロンはこの言い間違いを「ボーっとしていた」からだと言い訳したが、本当のサッカーファンならこんな言い間違いはあり得ない。(偶然にも数週間後にウエストハムとアストン・ヴィラの対戦があったが、イギリス人はこれをジョークのネタにして「デービッド・キャメロン・ダービー」と呼んでいた)。

 これはウィリアム王子も同様だ。彼が普通の男たちと同じようなことに関心を持つ普通の男に見え、どこかで公務をこなしながら試合結果を気にしているんじゃないかなんて想像することは、彼が途方もない特権階級であることを忘れさせてくれるのに役立つ。

 それはウィリアム王子がFA(イングランドサッカー協会)の会長であることを考えると特に重要だ。僕は子供の頃、王室の人間がFAカップを授与するのはばかげていると思っていた。「彼らにサッカーと何の関係がある?」と、僕は冷笑したものだ。ウィリアム王子は王室と国民的スポーツとの関係に意味を与え、国民とつながろうとしているのかもしれない。

■忘れられた都市の純英国的チーム

 だがなぜ、ヴィラなのか。

 3人ともそれぞれの理由があると思うが、ヴィラは「サッカーファン」だと思われたい人にとってかなり理想的な「安全な」クラブなのだ。

 第1に、相応に歴史のあるクラブだ。イングランドサッカー協会の創設クラブの1つであり、何度かリーグ優勝やFAカップ制覇を果たし、一度はUEFAチャンピオンズカップも制した。

 それでもここ35年ほどは優勝に恵まれていないから、最近の戦績がいいクラブのように他のクラブのファンから恨まれることもない(ウィリアム王子がマンチェスター・ユナイテッドを応援していたら、傲慢な勝ち組タイプだと非難されたかもしれない)。

 ロンドンの強大なクラブも他の地域から恨まれている。キャメロンがアーセナルのファンだったら「大都市エリート」の典型だと思われていただろう(実際、前回の保守党首相を務めたジョン・メージャーはチェルシーの熱烈なファンだったから、彼のイメージに役立つことはなかった)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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