コラム

ウエアラブル新時代はビジュアルではなく音声ARから

2020年04月13日(月)20時00分

音声データはデータ容量が少なく扱いやすい(写真はAmazonのEcho Loop) The Verge-YouTubeより

<最近は、ウエアラブルのことを記事に書いてもだれも注目しない。それでもこの時点でこの記事を書いておきたいと思うのは、明らかに今、時代が動こうとしているからだ>

エクサウィザーズ AI新聞(2020年3月19日付)から転載

数年前に某新聞社主催のウエアラブル関連の大規模カンファレンスの司会をさせてもらったことがある。当時はGoogleのスマートグラスGoogle Glassが発表されたばかりで、ウエアラブルコンピューターに世間の耳目があつまり、大盛況のカンファレンスになった。

ただ司会をしながら、ウエアラブル機器の開発者たちの話を聞いていて、ものすごい違和感を感じていた。それらの機器はアイデアとしては斬新でおもしろいのだが、完成度が中途半端で、どれも到底普及するとは思えなかったからだ。

メディアは一部開発者たちを「天才」と持ち上げた。僕は、担いだ神輿をいとも簡単に投げ捨てるのがメディアの常であることを知っているので、持ち上げられている人たちのことをかわいそうにさえ思ったほどだった。

今は、ウエアラブルのことを記事に書いてもだれも注目しない。恐らくこのコラムもアクセス数がほとんど伸びないことだろうと思う。

それでもこの時点で、この記事を書いておきたいと思うのは、明らかに今、時代が動こうとしているからだ。

最近、いろいろウエアラブル機器を調べているのだが、1つおもしろいと思ったデバイスがある。

Livio AIという補聴器なのだが、通話ができたり、リモコンになったりする。テレビや音楽プレーヤーなどの音をストリーミング転送し、イヤホンの役割をする。

各種センサーが搭載されているので活動量計にもなり、転倒検出通知も可能。近く心拍計測もできるようになるという。

このほか文字起こし、音声翻訳などもできるし、AIアシスタントも載っている。

高齢者の能力を補強するだけでなく、拡張もできるわけだ。

これは「拡張現実」の一種だと思う。

VR(仮想現実)との違い

ウエアラブルコンピューターがブームのときに、盛んに使われた言葉に「VR(仮想現実)」と「AR(拡張現実)」というものがある。

よく似た言葉なのだが、VRのほうは仮装空間を体験するもので、ARのほうは現実世界の中に仮想の物体や情報を貼り付けるもの。貼り付けるといっても、メガネにつけられた超小型スクリーンに物体や情報が表示され、リアルな空間に貼り付けられたように見えるようになっている。

当時、ARはこのような視覚面で、リアル空間の中でのユーザーをサポートする技術として語られていた。

しかしこのLivioAIは、音声を使ってリアル空間の中で高齢者をサポートする技術である。いわば音声ARなのだと思う。

ビジュアルデータよりも音声データのほうがデータ容量が少ないので扱いやすい。ウエアラブル時代は、当初考えられていたビジュアルのARではなく、音声のARが先にくるのではないかと思うようになった。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国境警備隊、シャーロットの移民摘発 初日に81人

ワールド

エプスタイン文書「隠すものない」と米下院議長、公開

ワールド

北朝鮮軍、西部クルスクで地雷除去支援 ロシア国防省

ビジネス

米バークシャー、アルファベット株43億ドル取得 ア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story