コラム

中央アジアとアフガニスタンが「中国の墓場」になる日

2021年10月16日(土)16時16分

「モンゴル」が名の由来であるムガール帝国の王子を描いた絵 HULTON ARCHIVE/GETTY IMAGES

<アレキサンダー大王から米軍まで、迎えては送り出してきた世界的要衝へ向かう習政権の命運は>

2019年夏のある日、私はウズベキスタン共和国西部のカルシ市から南へ向かっていた。

「米空軍はここから飛び立っていった」と、現地案内人の知識人は語る。羊の群れが悠然と草を食は むのどかな草原だが、川の向こうのアフガニスタンを眺め、改めてその戦略的重要性を認識した。

その要衝に、中国が早速触手を伸ばし始めている。一帯一路構想の拡充を目指す上で是が非でも押さえたい地域であり、その重要性は歴史的変遷が証明している。

アフガンが世界中から注目されているのは、地政学的に中央アジアの一部を成しているからだ。同国の重要性はユーラシアが世界史の舞台となって以来、変わらない。カルシとは、テュルク・モンゴル語で「天幕式宮殿」の意。14世紀にチンギス・ハンの一族が遠征中にこの付近に移動式天幕宮殿を張っていたことに由来する。

チンギス・ハンはモンゴル高原を統一するとすぐに中央アジア遠征に着手し、パミール高原以北のアム川とシル川流域に7年間も滞在した。彼の創建した世界帝国は、中央アジアを中心に東西南北へと延伸していた。カルシ市の北東に自他共にモンゴル帝国の後継者と認めるティムールの生まれ故郷がある。彼は何回もパミールを越えてアフガンとインド方面を抑え、帝国の南方を安定的に経略した。

16世紀になると、ティムール朝の王子バーブルは別のチンギス・ハンの子孫に追われてインドへ逃れ、かの地でムガール朝を創設。ムガールとは、「モンゴル」のペルシア語風の転訛(てんか)かだ。ムガール帝国最後の皇帝が大英帝国の軍人に処刑されるまでインドとアフガンは一体化していたし、創設者のバーブルもアフガンと中央アジアこそ故郷と見なしていた。

言い換えれば、アフガンも中央アジアもインドと連動していたし、研究者の中にはインドを中央ユーラシアに含める人もいる。当のインドだけでなく、新しい支配者としてデリーに君臨したイギリスまでアフガンを征服して帝政ロシアの南下を阻止しようとしたが、いずれも不名誉な敗退として歴史に記録された。

中国も古代から中央アジアに触手を伸ばそうとしてきた。前漢の外交家・張騫(ちょうけん)が西を目指していた途中に中央アジアで蜀の国、つまり四川の物産を発見した。

それらは古代の中国人が言うように西域を通って西へ運ばれたのではなく、雲南経由でインドに入ってから北上しアフガンを通過していた。中国に併合される前の雲南はインド・中央アジアとつながる国際通商路として繁栄していた。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

台湾ヤゲオ、日本政府から外為法上の承認を取得 芝浦

ワールド

北朝鮮金総書記が北京到着、娘「ジュエ」氏同行 中ロ

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=S&P・ナスダック1%超安

ビジネス

住友商や三井住友系など4社、米航空機リースを1兆円
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story