コラム

何度も「尖閣に安保適用」を確認する日本がアメリカを疑心暗鬼にさせる

2020年11月18日(水)11時50分

 アメリカの政権が変わるたびに確認を求められる尖閣 REUTERS/Ruairidh Villar

<「日中友好」で中国と商売しつつ有事は若い米兵に戦ってもらう「二重の依存体制」がワシントンをいら立たせている>

アメリカ大統領選挙の大勢がほぼ固まったことに伴い、政権交代を見越して日本政府の対応も慌ただしくなってきた。

11月12 日には菅義偉首相がバイデン前米副大統領と電話会談したが、対米と対中の間で揺れる相変わらずな日本政府の姿勢は、国際的な存在感を弱める危険性がある。

外交は確かに他力本願だが、対米と対中とでは性質が異なる。目下の日本政府最大の関心は、民主党へ政権移行した場合、日米同盟の武力行使の及ぶ範囲内に尖閣が含まれるか否かにあるようだ。実際、菅首相は会談後の記者会見で「バイデンが尖閣への安保適用を明言」と発表したが、日本は水面下でバイデンの側近らに接触し、この言質を引き出そうと必死だったことだろう。

だが、同盟国の政権交代ごとに自国領土の防衛についての姿勢を都度確認するのはいかがなものか。同盟が締結されていて、国家としての意思表示が過去にあった以上、何回も再確認する必要があるのだろうか。日本の執拗な再確認の姿勢は、逆に日米同盟は脆弱で、常に中国に付け込まれる余地のある関係だと示す結果になりかねない。

日本側の行動には、いまだに「米軍占領保護下」から成長していない心理が見え隠れしている。米軍進駐でもたらされた対米不安がまだ完全に消えていないのだろう。

冷静になって考えると、アメリカだって何度も中国に苦水を飲まされてきた。オバマ民主党政権の対中融和政策に行き過ぎた面があったことは否めないし、場合によっては無能だったと批判されても仕方ない。オバマ以前も中国をWTO(世界貿易機関)に迎え入れ、国際社会の建設的な一員になるよう促したが、その期待は裏切られた。南シナ海に人工島を造設して自国領海としたことや、一帯一路という巨大政治経済圏構想もアメリカの利益に触手を伸ばす結果だと映ったに違いない。

その延長線で考えると、尖閣のある東シナ海の喪失は、中国の対米防衛線である第一列島線の突破を意味し、グアムから米本土が中国海軍の脅威にさらされることになる。日本が強調しなくても、在沖縄米軍はにらみを利かしているはずだ。

おとなしくワシントンに「忠誠」を尽くしていればいいのに、日本はどうして不安を感じるのか。実はアメリカを疑心暗鬼にさせているのは、ほかでもない日本自身だ。「安保はアメリカ、経済は中国」というように、虫の良い政策を実施してきたことに因果律がある。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ米大統領、13日に相互関税発表へ SNSに

ビジネス

ホンダと日産、経営統合の構想とん挫 子会社化案で合

ビジネス

日産、今期800億円の最終赤字予想 リストラ費用1

ワールド

ハマス、ガザ停戦合意の履行継続と表明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザ所有
特集:ガザ所有
2025年2月18日号(2/12発売)

和平実現のためトランプがぶち上げた驚愕の「リゾート化」計画が現実に?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 2
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景から削減議論まで、7つの疑問に回答
  • 3
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観察方法や特徴を紹介
  • 4
    フェイク動画でUSAIDを攻撃...Xで拡散される「ロシア…
  • 5
    【クイズ】今日は満月...2月の満月が「スノームーン…
  • 6
    【クイズ】アメリカで「最も危険な都市」はどこ?
  • 7
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 8
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 9
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップル…
  • 10
    暗殺犯オズワルドのハンドラーだったとされるCIA工作…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮兵が拘束される衝撃シーン ウクライナ報道機関が公開
  • 4
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ド…
  • 5
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 6
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 9
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップル…
  • 10
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story