コラム

アメリカから帰国した私が日本の大手航空会社の新型肺炎対策に絶句した訳

2020年02月25日(火)14時30分

新型コロナウイルスの注意喚起は不要?(成田空港) TOMOHIRO OHSUMI/GETTY IMAGES

<日本の危機管理は「上司からの指示」と「マニュアル」がすべて? 大手航空会社や成田空港のコロナ対策に仰天した>

新型コロナウイルスが世界各地で猛威を振るい始めてから、10日間ほどアメリカを調査旅行した。

現地では、人々の予防方法にも文化の違いが見られた。マスク着用者は皆無に近く、筆者の持参したマスクもついに日の目を見ることはなかった。

あまり整備されていない電車の中で、せき込む乗客たちが隣に立っていた際も、マスクを取り出す勇気はなかった。渡米前に、マスクを着けたアジア系の女性がアメリカ人に怒鳴られる映像がSNSで流れていたのを知っていたし、郷に入れば郷に従う精神で臨んでいたからだ。

【参考記事】マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける

かの地では、入院患者がマスクを着用する。マスクを着けている者は病院を勝手に抜け出した者だと見なされる、という説明を現地の知人たちから聞かされていた。マスクをしていなくても手を洗い、体温をチェックするなどアメリカ人も体調管理に力を入れている。

世界で最も清潔な国である日本がなぜ中国に次いで2番目に感染者が多いのか(編集部注:クルーズ船含む)、彼らは強い関心を寄せていた。日本の経済がアメリカ以上に中国に依存しきっていること、人的交流も多いことだけでなく、無菌状態の日本人は常に他者に対し無防備な状態にあるのも問題だ、とメディアで専門家は指摘していた。

そのアメリカでもマスクは極端に不足していた。報道によれば、アジア系移民が購入し、本国に発送しているという。

「上からの指示」なしに動かない

筆者は旅を終えて飛行機に乗り込んだ瞬間に驚かされた。何と、日本人たちがほぼ全員、顔をマスクで隠しているのではないか。

筆者を乗せた飛行機が成田空港に着陸する際に、日本の大手航空会社のキャビンアテンダントは機内アナウンスで以下のような趣旨を美しい英語と日本語で伝えた。「アフリカ豚コレラがアジア各国ではやっているので肉製品の持ち込みは厳禁」「一昨年からコンゴ共和国をはじめ、アフリカの一部の国々でエボラ出血熱がはやっているので、体調に異常を覚える乗客は名乗り出るように」

ここまで聞いてから、次は新型コロナウイルスに関する注意喚起かと予想していたら、機内放送はピタッと終わり、キャビンアテンダントもベルトを着用して専用の椅子に座った。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story