コラム

基本的人権の理念を捨て、習近平を国賓に迎える安倍政権

2019年12月24日(火)18時00分

あくまで「国賓」として来日する習近平主席 ALKIS KONSTANTINIDIS-REUTERS

<ウイグル人弾圧、香港抑圧の習近平・独裁体制と「世界平和」を目指す安倍政権は、人権、民主主義の理念を捨てて経済的利益を優先するのか>

「日中両国はアジアや世界の平和と安定、繁栄に大きな責任を有している。(中略)この責任を果たすべきだとの認識を共有し、その意思を明確に示すことが国際社会から求められている」

この政治的常套句を口にしたのは、中国政府の気難しいスポークスマンではなく、日本の安倍晋三首相である。去る12月9日の記者会見で、来春に予定する中国の習近平(シー・チンピン)国家主席の「国賓」としての来日に方針変更はない、との決意を新たにした。

日中関係・日米関係に何が起きているか全く釈然としない──そう考える米シンクタンク勤務の私の友人が東京に来ていたときに、安倍首相は中国寄りの姿勢を一層強めて見せた。アメリカへの挑戦とも映る日本政府の昨今の動向は決して感情的な「反抗」ではなく、明確な意図に基づいた行動だ、とアメリカの関係筋はみているらしい。ダグラス・マッカーサー元帥が「12歳だ」と揶揄した時代から約70年がたち、日本がそろそろ「反抗期」に入っても誰にもとがめられない。問題は微妙なその時期だ。

トランプ米政権は今、中国との貿易戦争の真っ最中にいる。困難な協議を経て第1段階の合意に達したとはいえ、対立そのものが解消されたわけではない。何しろ、ペンス副大統領やポンペオ国務長官が繰り返し演説で表明しているように、アメリカは中国共産党そのものを悪の存在と見なし、体制に不信感を抱いている。経済分野の対立だけでなく、ウイグル人に対するホロコースト同然の弾圧や香港人に対する厳しい鎮圧は、まさに中国共産党の本質を物語る行為だと理解されている。

片や、安倍政権はアメリカの価値観と完全に相いれない独裁政権と「世界平和」を構築しようとしている。アメリカの識者たちの目には、戦前の大日本帝国がナチス・ドイツと秘密裏に交渉を続け、同盟を結んだ「悪の枢軸」を想起させてもいるようだ。

安倍首相を転向させたのは、いまだに「エコノミック・アニマル」の境地から脱出できていない経済界だろう。世界を代表するソニーとシャープは中国にウイグル人を監視する顔認証システムの部品を輸出してきた。無印良品とユニクロの製品には新疆ウイグル自治区で生産されていた綿花が利用されていた。そして、日本の大手飲料メーカーはビールの原料であるホップを同自治区で栽培していた。日本人が日常的に使う多くの製品にも、強制収容施設内に閉じ込められ、無理やり働かされたウイグル人の血と涙が染み込んでいる。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日揮HD、純利益予想を280億円に引き上げ 工事採

ビジネス

日経平均は反落、買い一巡後に調整 ハイテク株安い

ビジネス

出光興産、発行済み株の3.5%・300億円上限に自

ビジネス

午後3時のドルは154円前半、リスクオンで9カ月ぶ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入…
  • 8
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story