コラム

中国建国70年、異例の「3回目の軍事パレード」を強行する理由

2019年09月30日(月)15時55分

しかし、今回は国際的な正統性に欠ける。大国であるとはいえ、独裁体制がますます強化され、覇権主義的行動が目に余るため、日本以外の主要6カ国も距離を置いている。市民の中にも、そうした自国の姿勢に気付いている者はいる。

進むも地獄、進まぬも地獄

台湾問題もある。「人民解放軍は戦争に勝つ軍隊でなければならない」、と習は就任以来、軍を視察するたびにそう強調してきた。解放軍の最大の任務は「台湾解放と祖国統一」だ。

しかし、その台湾では民主主義体制が定着し、台湾人の自己認識も「中国人」から遠ざかっている。武力による威嚇では台湾人を屈服させることができず、逆に独立志向の民進党の支持率を高めつつある。南シナ海を占拠して島しょ部を要塞化したのには台湾包囲網を構築する狙いもあったが、こちらは米軍やイギリス軍、それに自衛隊による「航行の自由」を招いた。

祖国統一の理想も思わぬところから挫折し始めた。大英帝国の植民地から「祖国の懐に回帰」した香港だ。「祖国に回帰」して幸せを実感するどころか、「香港人は中国人ではない」との主張を掲げた若者たちが6月からデモを続けており、いまだに収束の見通しが立っていない。中国政府が解放軍の武装警察部隊を香港に近いところに展開して恫喝しても効果はなかった。

内憂外患が続くなか、大金を投じて軍事パレードを強行するのは、ほかに選択肢がないからだ。やらなければ負のスパイラルが始まる。しかし、やっても負のスパイラルが始まるのかもしれない。

<本誌2019年10月8日号掲載>

【参考記事】中国建国70年目の国慶節、香港デモで緊張も
【参考記事】中国による台湾の武力統一、「あと5年は無理」

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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