コラム

プーチン盟友の娘「爆殺事件」の裏にある残虐ウェブサイトの「暗殺リスト」

2022年09月03日(土)17時11分
ドゥーギンとダリアの写真

殺害された娘の写真の前で演説を行うドゥーギン(8月23日、モスクワ) Maxim Shemetov-REUTERS

<ロシア極右思想家ドゥーギンの娘が殺害された事件は誰の仕業だったのか。ロシアの国連大使が示したある不気味なサイトが注目を集めている>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に影響力を持つと言われる国家主義思想家のアレクサンドル・ドゥーギンの娘で、ジャーナリストだったダリヤ・ドゥーギナがモスクワ近郊で殺害されたのは8月20日のことだった。

彼女が運転していた四輪駆動車が爆破され、その映像などもSNSなどで拡散された。ただこのニュースは誰が暗殺を企てたのかが議論になっている。

ロシアの国内情報機関であるFSB(ロシア連邦保安局)の捜査によると、犯人はナタリア・ボブクという43歳のウクライナ人女性。爆破事件の1カ月前に、12歳の娘と一緒にロシアに入国し、暗殺の準備を行ったという。ジャーナリストのドゥーギナが、2月24日に始まったロシアが「特別作戦」と呼ぶウクライナ侵攻を支持する発言をテレビ番組などで行っていたため、ウクライナから狙われたのだとロシア側は指摘している。

メディアでは、この暗殺計画は思想家の父ドゥーギンを狙っていたが娘が代わって暗殺されたとする声も出ている。だが、FSBの関係者がタス通信に語っているところでは、狙いは初めから娘のドゥーギナだった、と述べている。

一方のウクライナ側はこのFSBの主張を否定している。ウクライナのミハイロ・ポドリヤク大統領府長官顧問は「ロシアの虚構のプロパガンダ」と糾弾している。ロシア側が娘を狙った暗殺を主張する背景として、ウクライナ側の「残虐さ」を主張する意図もあるようだ。

ドゥーギナの暗殺の後、ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使が記者に対して、あるウクライナ組織のウェブサイトを糾弾した。

「暗殺リスト」を掲載するウェブサイト

そのサイトは「Myrotvorets(ミロトフォレッツ)」。2014年からウクライナを拠点にロシアを厳しく批判しているサイトで、非営利組織が運営している。サイトには、一部のジャーナリストなどから「Kill List(暗殺リスト)」と呼ばれる、反ウクライナの発言や活動をしている人物のリストを掲載している。

そのサイトに、ドゥーギナがリストアップされていたのである。

つい先日、英ロックバンドのピンクフロイドの元メンバーで有名ミュージシャンのロジャー・ウォーターズがそのミロトフォレッツのリストに掲載された。ウォーターズは、バイデン大統領が「戦争犯罪者」で「ウクライナの火に油を注いでいる」と述べたり、NATO(北大西洋条約機構)を批判するようなコメントをしており、それが反ウクライナ的でロシア寄りだと非難されたからだ。

これまでには、このリストに掲載されたジャーナリストなどが殺害されていることから、EU(欧州連合)や人権団体などから、サイトを叱責するような声も上がっている。

この暗殺事件後に「Myrotvorets(ミロトフォレッツ)」の暗殺リストが示した反応とは? より詳しい情報を「スパイチャンネル~山田敏弘」でさらに解説しているので、ぜひご覧いただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story