コラム

フランス大統領選挙―ルペンとマクロンの対決の構図を読み解く

2017年04月29日(土)14時00分

以上の二つの対立軸を組み合わせて全体の構図を作ってみると次のようになる。

yamada3.jpg

こうして見てみると、第1回投票では、どの候補を選択するかということは、横軸と縦軸の二つの基準の組み合わせで四通りの考え方があり、そのどれを選ぶかということだった。単純化して言えば、マクロンを選ぶ人は、親EUでリベラルなフランスを志向する。ルペンを選ぶ人は、反EUで国粋主義的なフランスを志向する。メランションを選ぶ人は、反EUでリベラルなフランスを志向する。フィヨンを選ぶ人は、親EUでやや国粋主義的なフランスを志向する、ということであった。

【参考記事】大統領選挙に見るフランス政治のパラダイムシフト

この第1回投票の結果、メランションとフィヨンらが排除されたので、この両候補に投票した人々が、残った2人の候補のどちらを選ぶかが、決選投票の結果を左右することになる。

第1回投票でフィヨンに投票した人は、左右の対立軸で右の立場を重視する人と、縦軸の関係でグローバリズムを志向する人とで、対応が分かれることになろう。前者はルペンに投票し、後者はマクロンに投票するということが推定される。どちらにも賛同できないという人は、棄権に回ることになる。世論調査では、ルペンに流れる票が3割強、マクロンに流れる票が4割強、棄権が3割弱と予想されている。

一方、メランションに投票した人の場合は、やや複雑だ。左右の対立軸で左の立場を重視する人の中には、マクロンに投票する人もいようが、マクロンは十分に左ではないと考え、棄権する人もいよう。縦軸の関係でナショナリズムを志向する人は、ルペンに投票すると推定される。この場合も、どちらにも賛同できないという人は、棄権に回ることになる。世論調査では、マクロンに流れる票が5割、ルペンに流れる票が1割、棄権が4割と予想されている。

決選投票におけるルペンとマクロンの間の争点は明快である。リベラルでグローバリズム志向のマクロンか、国粋主義・ナショナリズム志向のルペンか。それは分かりやすいが、逆にその二人の中からしか選べないフランス国民の選択は、複雑な多元方程式のようで、難しく、悩ましい。

フランス人は、大統領選挙第1回投票は心で、第2回投票は頭で投票するといわれる。5月7日の決選投票で、フランス国民がどのような基準(横軸重視か縦軸重視か)に基づき、どのような合理的選択をするのか、注目される。世論調査では6対4でマクロン優勢と見られているが、いずれにも与しないと考える有権者が多数出て棄権に回るようなことがあると、ルペン当選の芽がないわけではない。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マクロスコープ:高市氏が予算案で講じた「会計操作」

ワールド

中国、改正対外貿易法承認 貿易戦争への対抗能力強化

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア停戦を評価 相互信頼再構
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story