コラム

右旋回するフランス大統領選──マクロン再選に黄信号

2021年12月29日(水)15時00分

2022年4月のフランス大統領選が混沌としてきた John Thys, Christian Hartmann, Bernadett Szabo, Christian Hartmann/REUTERS

<ルペン・マクロン対決の再現で事実上のマクロン信任投票と見られていた新年4月のフランス大統領選挙が混沌としてきた。新顔の右翼ゼムールの台頭によりにわかに選挙戦が白熱し、同じく新顔の右派ペクレスが漁夫の利を得て当選する可能性が出てきたのだ>

フランスの次期大統領選挙は新年4月10日と4月24日に行われる。4月10日は第1回投票で、ここで過半数を獲得する候補がいなければ、上位2位までの候補の間で、4月24日に決選投票が行われる仕組みだ。この独特の選挙システムがこれまでも数々の政治ドラマを生んできた。

最新の世論調査(harris interactive)によれば、主な大統領候補の支持率は、次のようになっている。
・マクロン(中道左派:「前進する共和国」)24%
・ペクレス(右派:「共和派」)17%
・ルペン(右翼(「極右」と訳されることもある):「国民連合」)16%
・ゼムール(右翼(同上):「再征服」)15%
・イダルゴ(左派:「社会党」)4%
・メランション(左翼:「不服従のフランス」)11%
・ジャド(環境派:「ヨーロッパ・エコロジー・緑」)7%

yamada20211228.jpg

左から、マクロン、ペクレス、ルペン、ゼムール

この数字のままだとすると、マクロン(24%)の決選投票進出はほぼ確実だとして、もう一人の決戦投票進出者がだれとなるのか。ペクレス(17%)、ルペン(16%)、ゼムール(15%)の右派/右翼の3人の間の差は、ほとんど誤差の範囲内であり、誰が勝ち残ってもおかしくない。

しかし、この2人目の決選投票進出者が誰になるかで、決選投票の構図は大きく変わることになる。3人とも右派ないし右翼として、穏健か極端かの違いこそあれ、基本的に同じ政治志向をもっているように見えるが、実はそうではない。

右派/右翼勢力の離合集散

従来フランスで右派ないし右翼(極右)とされてきた政治勢力は、社会文化的価値観において保守的(アイデンティティとフランス固有の価値観を重視、移民に厳しい)で、政治経済に対する考え方においてナショナリズムの傾向(主権主義、強い国家、保護主義)を体現してきた。その典型はドゴールの継承者たちのゴーリスト政党「共和国連合」であったが、非ゴーリストの中道右派勢力との大同団結を果たした2002年前後を境に、グローバリズムと新自由主義の方向に政策転換を行い、保守的な性格は変えないままで、伝統的なナショナリズム路線からは次第に遠ざかっていった。その空いた穴を埋めるように台頭してきたのが、右翼ルペンの「国民戦線」(現在は「国民連合」と改称)である。一方、統合した右派勢力はその後「共和派」(「共和党」とも訳される)と改称し、今日に至っている。

従って、同じ右(右派ないし右翼)とはいえ、ナショナリズム志向かグローバリズム志向かで、国民連合(ルペン)と共和派(ペクレス)の立ち位置は、まったく異なっている。このことを図示すると、下図の縦軸の関係におけるルペン(上)とペクレス(下)の違いとして表される。

yamada20211229ccc.jpg


同じくこの図に即していえば、前回大統領選挙のときは、共和派のフィヨンが第1回投票で敗退したため、決選投票では、図上左下のグローバリズム志向でリベラルなマクロンと、右上のナショナリズム志向で保守的なルペンという、まったく対称的で、政策の違いが明白な対決が実現した。今回の大統領選挙もこれと同じ構図になるのではないかと見られていたが、そう簡単にはいかない波乱要因が最近になって見られるようになってきた。新右翼のゼムール候補の台頭と、共和派候補ペクレスの登場である。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ビジネス

タイ中銀、バーツの変動抑制へ「大規模介入」 資本流

ワールド

防衛省、川重を2カ月半指名停止 潜水艦エンジンで検
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story