コラム

右旋回するフランス大統領選──マクロン再選に黄信号

2021年12月29日(水)15時00分

ゼムールとペクレス

ゼムールは、政治評論家としては有名で、歯に衣着せぬ反移民や反イスラム的な言動で右派/右翼の支持者の間で人気を博していたが、政治家としてはまったくゼロの存在であった。それが急速に大統領候補としてのし上がってきたのは、国民の間で移民問題や治安の悪化への不安・不満が強まってきたことが背景にある。従来そうした国民の不安・不満の受け皿はルペンの国民連合であったが、ルペンが前回大統領選挙敗北の反省から、次回選挙に向けて脱極右戦略を進めてきたことが裏目に出て、伝統的支持層の一部の離反を招き、それがゼムール支持に回っているとみられる。

一方、前回大統領選挙で初めて決選投票に進出できないという屈辱を味わった共和派は、今回激しい党内予備選挙を経て候補の一本化に成功し、初の女性候補ペクレスの擁立に至った。ペクレスは、マクロンと同じくエリート官僚出身で、サルコジ政権で閣僚を務めるなど早くから共和派の有力な女性政治家として注目を集め、順調に権力への階段をのぼってきた。政治的な立ち位置は、上図に即していえば右下で、社会文化的価値観(横軸)において保守的、政治経済に対する考え方(縦軸)においてややナショナリズム的な要素を含みつつ基本的にはグローバリズム志向といえる。

今回の大統領選挙のポイント

このように見てくると、今回の大統領選挙のポイントが浮かび上がってくる。

1.ルペンとゼムールはほぼ支持層が重なり、票の奪い合いとなる。その結果、両者共倒れとなる可能性がある。

2.それを避けるためにこの2人が一本化する(どちらかが立候補を取り下げるか、なんらかの選挙協力を行う)ことができれば、ペクレス候補を上回り、決選投票に進む可能性が高い。その場合、マクロンとの決選投票となり、前回と基本的に同じ構図となる。

3.ルペンとゼムールが共倒れとなって漁夫の利を得るのはペクレスである。決選投票に進出し、マクロンとの対決が実現する。それを目指し、ペクレスは第1回投票で是が非でも2位以内に入らなければならない。そのためには、ルペンとゼムールの票田に食い込むべく、より右寄りの路線(より保守的でナショナリズム志向)に擦り寄っていくに如くはない。それに成功すれば、第1回投票はもとより、決選投票でも勝利して、フランス初の女性大統領となる可能性がでてくることになる。

今回の大統領選挙でも、面白い政治ドラマが見られそうである。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米下院、カリフォルニア州の環境規制承認取り消し法案

ワールド

韓国大統領代行が辞任、大統領選出馬の見通し

ビジネス

見通し実現なら経済・物価の改善に応じ利上げと日銀総

ワールド

ハリス氏が退任後初の大規模演説、「人為的な経済危機
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    フラワームーン、みずがめ座η流星群、数々の惑星...2…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story