
最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
ポートランド発 ー アメリカを支えていたのは、 英雄ではなく『名もなき彼女たち』だった
Photo | Karla Vazquez|踏まれても、光の方へ ーー 見えない場所で生きる力
カーラさんがアメリカに来たのは、12歳のとき。母と共に国境を越えた時の滞在資格は、DACA*(ダカ)。
英語は一切話せず、アメリカの教育についていけず。さらに、生活苦から高校を中退して働かざるをえませんでした。
「自分に残された力は、働くことだけだった」と彼女は言います。
結婚と離婚を経て、3人の子どもを抱え、ポートランドへ移住。「子どもたちを食べさせ、学校に通わせるためにもお金が必要だった。」
資本金も学歴もない自分が選んだのは、清掃業でした。
夜明け前の暗い道を車で走りながら、自分に言い聞かせた言葉があります。
「止まらなければ、いつか道は開ける。」
周囲の支えを受けながら事業を学び、『働く力』に加えて『経営する力』を徐々に身につけていったカーラさんは、今では12名の従業員を抱える小さな会社の経営者へ成長しました。
「失うものがないとき、人は本当の強さを知る。」
カーラさんの歩みは、その言葉を静かに体現しています。
* DACA(ダカ)とは ーー 子どもの頃に家族と共にアメリカへ移り住んだ人に、一定期間の就労と滞在を認める救済制度。ただし、米国市民権にはつながらず、更新制のため生活は不安定とされる。
Photo | Karla Vazquez
|レジリエンス ー それは、生きていくというもう一つの名前
「働くことは生活のためだけじゃない。社会の一部として、自分が息づいていると感じられるから。」カーラさんはつとめて明るく語ります。
「清掃は、人々が気持ちよく一日を始められるように場を整えること。」そして、「見えない明日を生き抜く人の心を、すこしだけ軽くする」仕事と言います。
日本でも、清掃・介護・給食といった生活を支える仕事の多くを女性が担い、その3人に1人がシングルマザーまたは非正規。
名もなき人々の働きが、社会を支えている点は日本もアメリカも同じです。
傷ついた時代でも、人は何度でも立ち上がれる。制度ではなく、生きる力そのものが人を動かす。
レジリエンスは、特別な誰かの物語ではありません。静かに、確かに、あなたの中にも息づいている力です。
その小さな灯りが次の時代を照らしていく。そう私は信じています。
新連載スタート
ポートランドが映す「これからのアメリカ」
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新春特集|2026年、働き方はどこへ向かうのか
『静かに始まる大転換』の正体とは?
一人が複数の役割を同時に担う時代へ。
格差を埋める「地域発の新モデル」も動き始めています。2026年、働き方はどんな未来へ向かうのか----その行方を読み解きます。
記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。 本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。

- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
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Instagram:PDX_Coordinator
協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)
























































