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最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性

山本彌生|アメリカ

ポートランド発 ー アメリカを支えていたのは、 英雄ではなく『名もなき彼女たち』だった

Photo | Yayoi Yamamoto, PDX Coordinator & Planner, LLC

アメリカの底で、静かな『生き抜く力』が社会を動かしている。

アメリカではいま、『レジリエンス』ーー
困難や逆境に直面しても、しなやかに回復しながら、また前へ進む力
という概念が、人々の暮らしの中で強く意識され始めています。

物価高、家賃高騰、医療費の重さ。
抽象的な政治論より、今日の生活が成り立つかどうかが最優先事項となりました。

とくに 9.11以降に生まれた若い世代にとって、
社会を人種・宗教・思想で『右か左か』に分けることよりも、
上と下の差 ーー 深まる格差こそが最大の苦しみだと言います。

未来への不安は、抽象的な政治の話ではなく、目の前の生活そのものの問題に。
家賃、医療、学費、そして働いても暮らしが前へ進まない現実。

この現実は、ポートランドでも同じです。

このまちは、事業所の約8割を中小企業が占め、日本と重なる構造を持ちながら、物価上昇の波にあえぐ人も少なくありません。

日本と同じように、若い世代ほど生活の苦しさを強く抱えており、『明日が見えない』という感覚は両国に共通しています。

その名もなき彼女たちこそ、揺れる時代の中で"静かに社会を支えている存在"なのです。

そして、その姿がどれほど強く、どれほどしなやかなのか ーー 次の節で見えてきます。


newsweekjp_20251121033132.jpg母、本人、そして息子の妻──三世代が支え合う、家族経営の温かな原点。 Photo | Karla Vazquez


「折れない、しなやかに生き抜く」という意思 ーー 痛みの中でも前へ進む時代に

こうした社会の揺らぎは、働き方の現場にも変化を生んでいます。

パンデミックを境に、人々は働き方と生き方そのものを見直すようになったのです。

ポートランド郊外の早朝、古いワゴン車が通りに並びます。清掃道具を積み、仕事へ向かうのはラテン系・アジア系の女性たち。

その多くがシングルマザーです。

子どもを送り出し、床に這いつくばるように働き、夕方には夕食を作り、英語の宿題を見ながら疲れて寝落ちしてしまう日もあります。

もちろん、生活に余裕はありません。時給は高くなく、燃料代や清掃用品も自腹。

それでも彼女たちは口を揃えて言います。

「働けることが希望。
自分の力で生きられることが、明日の活力になる。」

全米では、女性起業家の3人に1人が移民。
清掃、ケータリング、美容サロンの下請けという生活密着型の分野で、パンデミック後、小さな起業が静かに増えています。

背景には賃金格差、育児との両立、社会保障の遅れがありますが、彼女たちは政府支援を待つのではなく、『自分の働き方を自分でつくる』という道を選び始めました。

アメリカの変化の本質は、巨大資本でもテクノロジーでもなく、『個のしなやかさ』が社会を前へ動かしていること。

この先のストーリーは、抽象論ではありません。

何も持たないひとりの女性が、どうやって未来を切り開いていったのか?そして、彼女は何を失い、何をつかみ、どこへ向かったのか?

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踏まれても、なお光へ。合法移民として、母として、生き抜いた彼女の歩み。

Profile

著者プロフィール
山本彌生

企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。

Facebook:Yayoi O. Yamamoto

Instagram:PDX_Coordinator

協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)

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