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ミャンマーに暮らす

匿名|ミャンマー

ミャンマーインセイン収容所で拘束中の映像作家、久保田徹氏関連ニュースを見て

2021年デモの様子:関係者提供

ドキュメンタリー映像作家、久保田氏がミャンマーヤンゴンで軍による拘束を受けてから、もうすぐ3カ月が経過しようとしている。

ミャンマーで拘束 久保田さん 新たに禁錮3年の判決 刑期10年に

彼はドキュメンタリー映像の撮影の為、ヤンゴンで活動していたところ、軍当局により拘束された。
軍が発表したのは電子取引法違反で禁固7年、扇動罪で同じく禁固3年。
入国管理法違反については裁判所で引き続き審理が続いているとのこと。
全ての罪が出そろってから解放するかどうかを考える、というような事が軍の広報からは発表されている。

更に先日こんな事件が起こった。

ミャンマー、久保田氏収監の刑務所で爆発2回

久保田さんが収監されているインセイン収容所で爆発事件が起こったのである。
受刑者への差し入れに紛れていた小包爆弾が爆発したようだと報じられているが、その爆発自体の威力はそれほど大きくなく、負傷者が出た程度だった。
問題はそれに驚いた監視タワーの警備員が差し入れ所に向けて発砲し、犠牲者8人はその銃弾で命を奪われたというのであるから酷い話である。
決して民主派テロにより8人死亡というような単純な話ではない。

さて、二つのニュースを並べたが、私は何も、
「紛争地帯における取材活動の是非」を論じたい訳ではない。

昨年、日本人ジャーナリストの北角氏が同じくインセイン収容所へ拘束された時もそうだったが、そもそもクーデター以降のミャンマーにおいて、「紛争地帯における取材活動の是非」論議が出る前に、もっと状況を理解しておかないといけない。

その理解に足る情報が世間に浸透していないように感じている。
今回はその前提状況を補足し、改めて理解していただき、今後ミャンマーニュースを読む際の参考になればという思いで執筆を続ける。

よくある「紛争地域における取材活動の是非論議」で
「日本政府から危険であると定められている紛争地域に自ら行っているのだから自己責任だ」という言説がある。
今回もそういった言説が飛び交っていたように思うが、外務省が定めるところによるとミャンマーヤンゴンの危険レベルは4段階中2である。

これは「不要不急の渡航は控えるように」というレベル。
アメリカなどは既に最大危険レベル4にしているという日本との不一致はあるが、少なくとも日本政府はヤンゴンを紛争地帯とみていない。
今世界的に注目を集めるウクライナは当然のごとく全土をレベル4(退避勧告)にしている。
因みに外務省は侵略しているロシア側を危険レベル3(渡航中止勧告)としている(ウクライナと国境を接しているところを除く)

さらに根本的なミャンマーの前提状況を上げたい。
ミャンマーは今、日本のように民主主義国家であり、法治国家であると捉えてはいないだろうか?
「その国に来たらその国のルールを守るべき」
「郷に入っては郷に従え」
このような言説は一定理解を示したいと思う。

ただし、民主主義国家、法治国家として日本と同程度のレベルである地域という理解の上で議論を進めようとしているのであれば話は別である。
そもそも紛争地域であるなら日本のような平和な国と同程度であるはずはないのだが、何故か同程度の前提で話が進んでいるように思う事が多々ある。

議論が空を切るばかりか、ミャンマーの事をよく知らない人に誤解を与えかねない状況がそういった言説によって生み出されている現状に、この国に住み関わるものとして深く憂慮する。
私の個人的な意見は出来るだけ控えて表現したいと思うが、最低限共有して欲しいミャンマーの現状認識について最後に述べていきたいと思う。

私は、国連が全ての善と考える人間ではないが、世界最大の機関として掲げている認識があるので参考にしたい。
国連憲章第2条の4
すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
以上国連憲章より抜粋

2021年2月1日に軍が起こしたクーデターは武力による現状変更にあたる。
世界中の選挙監視団(日本含む)が「結果が左右されるような大きな不正はなかった」とする2020年の総選挙で選ばれた多くの国会議員や大統領を含めた閣僚などを一方的に拘束して非常事態宣言を出し、軍主導で国を治めようとしたのである。
条文の2の4に限らず国連憲章を読み進めていけば、このことがいかに平和を目指す世界の中において許されない行為かは理解できよう。

国連総会ではミャンマー軍に対する非難決議が採択されている。

ミャンマーへの武器流入防止を 国連総会が決議採択

日本においては衆参両院で非難決議が採択されている。

ミャンマーにおける軍事クーデターを非難し、民主的な政治体制の早期回復を求める決議案
(第二〇四回国会、決議第三号)衆議院

ミャンマーにおける軍事クーデターを非難し、民主的な政治体制の早期回復を求める決議
令和3年6月11日参議院本会議

昨年の6月にこれだけの非難決議が採択されたにもかかわらず未だ、日本も世界もミャンマー問題の解決に向けての解答を導き出せていないのは非常に歯がゆい思いであるが、少なくとも今日の世界において、まさかミャンマーは平穏な法治国家に戻り、民主主義がなされているなどとは考えられない事は紛れもない事実である。

いかがだろうか?
このような前提の状況を改めて理解した上で冒頭のニュースを観た時、果たしてあなた方はどのような議論を行い、どのような結論を導きだすのであろうか?
冒頭のニュースでは裁判によりと書かれてあるが、ここは日本ではなく、ミャンマー。

軍により統制された司法下での裁判である。
この現実を受け止め理解し、ミャンマーから出てくるニュースを読んでいただきたい。
また見えてくるものが違ってくるのではないだろうか?

世界を見渡せばミャンマーだけで理不尽な事が起こっている訳ではない。
もっと悲惨な状況に苦しめられている人がいるということも事実だ。
ロシアのウクライナ侵攻よりもミャンマー問題の方が大きなことと言う訳では決してない。
この狭い地球上でありとあらゆる事で人の尊厳を奪う理不尽が存在しているのは承知の上だ。
しかし、私はミャンマーを愛する人間として、今の多数苦しんでいるミャンマー国民の状況を少しでも良くするため、この現実を知って欲しいと思う。

結論だけを見ると彼は失敗したのかもしれない。
だが、同じような想いで尽力されていたであろう久保田徹という未来ある若者を私は軽々しく非難して欲しくないと切に願う。

 

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