コラム

米国の外交安全保障、米国が選択する3つの道に備える

2021年03月16日(火)17時10分
バイデン大統領

米日豪印「クアッド」によるオンライン首脳会談に参加するバイデン大統領 REUTERS/Tom Brenner

<外交安全保障方面に徐々に力を入れ始めているバイデン政権。米国が「対中国」という方向性自体を諦める「第三の道」を選択した場合も想定し、日本は予め十分にしておくことが必要だ...... >

バイデン政権にとって、喫緊の課題であったコロナ救済法案が成立し、次なる国内政策の懸案事項は巨額のインフラ投資政策が予定されている。ただし、インフラ投資政策は7月4日の独立記念日までに一定の方向性に落ち着くものと想定されるため、バイデン政権発足時の国内政策の正念場は一旦終わった状況となっている。

中国を「管理された戦略的競争」に置くための政策

そのため、バイデン政権は外交安全保障方面に徐々に力を入れ始めている。そして、バイデン政権の外交安全保障政策の方針を受けて、権威主義国の伸長を防止しつつ、民主主義国が協力して中国を「管理された戦略的競争」に置くための政策が着々と進みつつある。

直近ではインド太平洋地域では米日豪印「クアッド」によるオンライン首脳会談や日本・韓国との対面での2+2会談の開催など動きが出始めている。また、欧州との関係修復を急ぐと同時に、中東ではシリア領内の武装勢力を爆撃した上で、トルコの東地中海での抑制的な方針展開を評価し、イランとのタフな核交渉を再開している。そして、初期の外交活動の仕上げとして、3月18日にブリンケン国務長官と中国外相らとのアラスカ会談が予定している状況だ。

バイデン政権による外交安全保障方針は、中国が経済成長とともに民主化するという見通しが幻想であったこと、米国単独で中国に抗することが事実上不可能であったことを踏まえたものだと言えるだろう。

オバマ政権後期に至るまで米国は中国の経済成長から恩恵を大いに受け取る立場にあった。そして、中国の野心と脅威が認識される以前では中国は発展とともに「何時、民主化するのか」という議論が幅を利かせていたものだった。

トランプの対中単独行動主義は中国の国力を軽く見過ぎた

しかし、その見通しが甘い幻想であることが理解されるとともに、オバマ政権後期からアジアへのリバランスが図られるようになり、トランプ政権では明確に中国は「米国の脅威である」と認識されるに至った。

米国が台頭する中国の野心に対して選択した「第一の道」は、トランプ政権による単独行動主義であった。第一の道とは、米国が強力な経済制裁を駆使しつつ、軍事的な圧力をかけることで、中国共産党の野心を挫くことを志向するものであった。

ただし、トランプ政権は中国の国力を軽く見過ぎており、米国単独で中国を屈服させられるものと勘違いしていた。トランプ政権が欧州の同盟国に背を向けている間に、中国側は巨大な国内市場の力を背景としつつ、一帯一路政策などを通じて、インド太平洋、アフリカ、欧州に至るまで影響力を拡大した。そのため、トランプ政権による対中単独行動主義は政権最終盤では路線転換せざるを得なくなり、日本が事実上お膳立てした日米豪印によるクアッドなどの枠組みが新たに重視するようになっていった。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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