コラム

米国の外交安全保障、米国が選択する3つの道に備える

2021年03月16日(火)17時10分

外交力を駆使して世界情勢を安定させる「第二の道」

今、バイデン政権は「第二の道」を選択しつつある。「第二の道」は冒頭のように外交力を駆使することによって、世界情勢を安定させるとともに、民主主義の価値観を共有する同盟国と協力して、中国の影響力拡大を阻止するというものだ。バイデン政権はトランプ政権の忘れ形見であるクアッドだけでなく、欧州諸国との関係改善なども対中・対ロなどの対権威主義国の文脈で機能させようとしている。

トランプ政権の単独行動主義の試みが不十分な成果しか生まなかった以上、筆者はバイデン政権による外交安全保障の方針転換には肯定的である。むしろ、米国が対中国で取り得る現実的な選択肢はこの道しかほぼあり得ない。

しかし、このバイデン政権の「第二の道」も茨の道であることに変わりはない。世界は必ずしも民主主義の価値観を第一の国是に据える国ばかりではない。むしろ、バイデン政権の外交安全保障政策に対し、民主主義と権威主義の間で揺れ動く東欧諸国やアジア諸国が米国から実質的に距離を置く可能性すら否定できない。「第二の道」が世界中の国々から支持を受けて必ず成功すると断言する根拠は存在していないのだ。したがって、我々はバイデン政権が志向する「第二の道」にも失敗というリスクがあることを認識するべきだ。

仮に米国が「第一の道」「第二の道」に限界を感じて、対中国という方向性自体を諦める「第三の道」を選択した場合、世界はどのようなものになるだろうか。筆者はバイデン政権以後の米国がそのような道を取ることも想定し、その備えを予め十分にしておくことが必要だと断言する。

米国が海外関与から撤退する「第三の道」、その時日本は......

米国が採用し得る「第三の道」とはケートー研究所などのリバタリアン系シンクタンクが伝統的に主張している、彼ら米国が海外関与から撤退する道である。最近では新興のクインシー研究所らも加わり、従来よりも幅広い層からの国内世論の支持を形成し始めている。この主張は21世紀初頭に米国で一世を風靡したネオコンの論理とは真逆のものであり、米国が不必要な戦争などに巻き込まれる可能性がある対外関与から手を引くことを基調としている。

米国は20世紀以降自らよりも経済力が上回る敵対者と競争したことがない。したがって、仮に中国の経済成長が継続した場合、米国が中国との軍事的・経済的な競争自体を諦めて肩の荷を下ろす衝動に駆られることも十分にあり得る。人間の命の値段が高い民主主義国では十分に想定されることだ。

その際、日本は一人で世界の大海原の中に突如として放り出されて、自らの意志で泳いでいくことが求められるようになる。もちろん、対中国だけでなく、対アジア、対欧州、そして対米外交すらも自らの意志と能力で乗り切ることが必要となる。現在の対米一辺倒の保守派や親中で思考停止した経済界や左派勢力のように、自らの意思・能力を示す力が欠如した人材のみでは、国難に際して日本の舵取りをしていくことは困難になるだろう。

米国には「第一の道」「第二の道」だけでなく、常に「第三の道」が用意されているということを忘れず、日本には次代を背負う自主独立の精神を持った真のリーダーの育成を育成することが急がれる。米国が「第三の道」を選択するとき、その時が日本にとっての本当の試練の時となるだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story