コラム

ハリウッドの白人偏重「ホワイトウォッシング」は変えられるか?

2017年11月09日(木)11時30分

それに引き続き、原作者がホワイトウォッシングを拒否した映画がある。

『クレイジー・リッチ・エイジアンズ(Crazy Rich Asians)』(2018年公開予定)は、ハリウッド映画なのに、キャスト全員がアジア系の俳優だという。

映画の原作は、シンガポールを中心にした中国系アジア人のスーパーリッチを描いた『Crazy Rich Asians』という小説だ。作者はアメリカ在住の作家ケヴィン・クオンで、この小説に登場するような由緒ある家系のようだ。そして、11歳まで過ごしたシンガポールでの体験が活かされているという。

小説の主人公レイチェルは、幼いころに母と一緒に中国本土からアメリカに移住した「中国系アメリカ人」だ。現在は有名大学で経済学教授をしている。2年つきあっている恋人のニックは、イギリスの大学で教育を受けた中国系シンガポール人で、同じ大学の歴史教授を務めている。

ニックの親友の結婚式に出席するためにシンガポールを訪れたレイチェルは、彼の家族が大富豪だということを初めて知らされる。そして、家系や富にこだわる彼らの価値観に戸惑い、予想もしなかったような差別やいじめにあう、というものだ。

この小説に出てくる裕福な中国系シンガポール人は、「有名なブランド品を身につけるのは貧乏人。デザイナーの来年のコレクションでないと流行遅れ」とみなしてひとつの服に何千万円も費やし、由緒ある英国のホテルが人種差別をしたら、ホテルごと買い取ってしまうレベルの「クレイジー・リッチ」だ。その金銭感覚は、収入格差が激しいアメリカの「富豪」の感覚も超えている。

よく「女性小説」と呼ばれる娯楽小説のジャンルに属する本なのだが、アメリカで爆発的に売れ、続く2作もすべてニューヨーク・タイムズ紙ベストセラーリストに入った。

これだけ注目されたら、当然のように映画化がもちかけられる。

だが、最初にクワンに映画化をもちかけたハリウッドのプロデューサーは、レイチェルを白人にしたがった。

そこでクワンは「あなたは要点をすっかり見落としてますよ」と断った。

クワンの言うとおりだ。

この小説は、「全員が中国人」であることが重要なのだ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

訂正マネタリーベース、国債買入減額で18年ぶり減少

ビジネス

USスチールの収益体質は脆弱、「成長戦略」縮小はな

ワールド

インドネシア、第3四半期GDPは前年比+5.04%

ビジネス

グーグルとエピックが和解、基本ソフトとアプリストア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story