コラム

「4人目が生まれたら、所得税ゼロ」──丁寧に議論すれば、日本でも実現できる?

2023年03月31日(金)15時30分
トニー・ラズロ(ジャーナリスト、講師)
子供

JGALIONE/ISTOCK

<イーロン・マスクは少子化と日本滅亡をしつこくツイートするが、無視していい。しかし少子化がさらに深刻化するのは間違いなく、大事な議論をしっかりすべき>

ネット上で炎上を起こす人を英語で「トロール」と言うけれど、世界最大のトロールといえる人の1人は、ツイッターのCEOイーロン・マスク。そして彼はどうも、ネット上で日本をつつくのが好き。

昨年5月の「出生率が死亡率より高くなるような変化がない限り、いずれ日本は消滅するだろう」という発言に続き、この3月上旬にも「日本では昨年、生まれた数の2倍の人が亡くなった」とまたツイッターで呟いている。まあ、これはちょっと変な話だ。

世界中どこでも出生率の低下が深刻な話題になっている。人口1000人当たりの出生率は、CIAのワールドファクトブックによれば、EU加盟国であるギリシャ(7.52)、スペイン(7.12)、イタリア(7)は特に低く、日本(6.9)とそう差はない。

ちなみに、韓国は6.95で日本とほぼ同じ。でもなぜか、マスクはこういう国が消えてなくなるなんて名を挙げてツイートしない。

ネット空間で炎上を起こそうとする者への対抗策として「Donʼt feed the troll(トロールにえさを与えるな)」という有名な言葉がある。

この場合、「えさ」とは彼らが何よりも欲しがっている「注目」のこと。荒らし屋に反論したり、荒らすのを止めるようお願いしたりせず、「トロールにえさを与えるな」はむしろ、一切無視する、という考え方だ。

マスクが3月に再び日本の少子化問題についてツイートした理由は、たぶん無視をされていないからだ。昨年5月のツイートは多数のメディアに取り上げられた上、9.9万の「いいね」を獲得し、1.7万回リツイートされている。かなり注目を浴びた、といったところだ。

岸田文雄首相は年頭に「異次元の少子化対策」を掲げ、3月17日には育児休暇の取得促進や若者の所得向上などの基本方針を明らかにした。月内に対策のたたき台をまとめるとされており、その詳細はコラム執筆時点でまだ定かではない。

ただ、いずれその対策について国民に説明することになる際には、「日本消滅(を防ぐためにも)」といったようなキーワードはぜひとも避けてほしい。マスクのつぶやきに注目しているような信号を発信する必要はないし、第一、「日本消滅」は起こり得ないからだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼総統、中国軍事演習終了後にあらためて相互理

ビジネス

ロシア事業手掛ける欧州の銀行は多くのリスクに直面=

ビジネス

ECB、利下げの必要性でコンセンサス高まる=伊中銀

ビジネス

G7、ロシア凍結資産活用は首脳会議で判断 中国の過
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 7

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 10

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story