コラム

日本人はなぜそんなに愛情を言葉にしないのか、外国人が心から感じる不思議

2021年12月10日(金)15時54分
石野シャハラン
愛情表現

TAKASUU/ISTOCK

<公の場で感情を表現することがはばかられる雰囲気のある日本。家族への愛情表現が当たり前のイラン人筆者には不思議に思える>

日本語には愛情表現が少ない。日本語がある程度理解できるようになってから私はずっとそう思っている。

最近改めてそう感じたきっかけは、秋篠宮家の長女・眞子さんと小室圭さんの結婚後の記者会見だった。会見で圭さんは「私は眞子さんを愛しております」と言った。これはバッシングを受けるほど悪いことなのか? なぜ人が人を愛し、愛する表現をしてはいけないのか。眞子さんが皇室出身だからダメなのか。それとも公の場で愛情表現をしてはいけないのか。私には理解し難い。

イランやその周辺国には愛情を表す言葉がたくさんあって、いかに豊かにその表現を使うか、センスが問われる。例えば「あなたは私の肝臓だ」「あなたの肝臓を食べる」「あなたは私のゴールド」「あなたが私の太陽/月です」(くしくも眞子さんたちも使った言い方だ)といった表現だ。

肝臓を食べる、という表現は現代の日本では奇妙だろうが、イランでは肝臓だけでなく「心臓」とも言うし、「命」もその表現の一つだ。そういう表現を年がら年中、大事な人に言うのだ。実際に私は娘に「あなたが私の命」と毎日十数回言っている。これは私の母国語であるペルシャ語で「ジュネ・マン」と言う。彼女もそれを理解していて、言われなければ悲しんだり怒ったりする。そして「パパ、なぜ言わないの?」と聞く。

これは子どもが生まれたときから教育の一つだと思って続けている。そういうふうにして、彼女も大きくなってパートナーや子どもができたりすれば、彼らにも同じように愛情表現をしていくだろう。人を愛することは素敵なことで、それを表現できることはもっと素敵なことだと私は考える。

白鵬もわざとではないはず

愛情はプレゼントやスキンシップだけでなく、言葉でも示すことができる。毎朝の挨拶と一緒に、一つ愛情を表現できれば、お互いに良い一日のスタートを切ることができる。私が生まれたイランでは、そうした一日の始まり方をとても大事にする。このような愛情表現はイランでは当たり前すぎて、逆に言わなければ問題になる。

それに対して、日本は愛情表現では真逆に位置している。日本では愛情だけでなく、全般的な感情の表現を抑えることが美徳とされてきた。うれしいときも悲しいときも、なるべくその感情を表に出さないように、といった具合に。

外国人には理解が難しいが、引退した横綱の白鵬は、勝ったときに土俵上で喜びの表情やポーズを作って注意を受けた。それを大部分の日本人は当然の注意勧告と思っていたようだが、喜びの感情は自然に出てしまうもので、わざとやっているわけではない。そうして育ってきたのだから。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story