コラム

レジリエンス(回復する力)とは違う、「我慢」する日本人

2021年03月31日(水)16時20分
西村カリン(ジャーナリスト)

東日本大震災・原子力災害伝承館(福島県双葉町) Yuichi Yamazaki/GETTY IMAGES

<被災の苦難を我慢して頑張り過ぎる日本の国民性を政府が利用していることに、強い怒りを感じる>

フランスのマクロン大統領が3月11日、東日本大震災の発生から10年を迎えたのに合わせ、日本向けのメッセージ動画をSNSに投稿した。「日本の人々の抵抗する力、回復する力に敬意を表します」とマクロンは述べたが、「回復する力」はフランス語では「résilience(レジリエンス)」という単語が使われた。

レジリエンスは心理学の言葉で、大変厳しいショックやストレスを受けたときに、そこから回復する力、立ち直る力を意味する。

フランスでは最近、「レジリエンス」または「レジリエント」(回復する力のある人)がよく使われている。私は90年代後半までフランスで暮らしたが、当時はこの単語を聞く機会はあまりなかった。

だがここ数年、テロや新型コロナウイルスの流行などを含めて社会全体が経験した危機やトラウマが増えたために、政治家もマスコミも「レジリエンス」について議論をする機会が多くなったと思われる。英語でも同じ単語が使われるので、その影響もあったかもしれない。レジリエンスがある人はトラウマを経験したら、そのショックを受け止めた後、いくつかの方法で回復し、さらにはある意味で以前より強くなる。

だから、レジリエンスはポジティブな意味を持ち、レジリエントになるのは良いことと思われがちだ。そして、政府が国民に求めているのがレジリエンスだ。

報道されない被災地の現状

なぜマクロンは、日本人には特にレジリエンスがあると思うのか。1つには、フランスのマスコミは東日本大震災の数カ月後には被災地の状況をほとんど報道しなくなったから。大統領も含めてフランス人の間では、東北で非常に厳しい状況に陥った人が多いことはあまり知られていない。たぶんフランスで同じような事態が起きたら、デモがあったのではないかと思う。またその後、被災地の状況が外国の新聞の一面になることはなく、福島第一原子力発電所の事故で避難した人々についてのニュースも比較的少なかった。

だから外から見ると、日本人はこんなに強い衝撃を受けても立ち直ることができて素晴らしい、それはまさにレジリエンスだと信じてしまう。

ただ、私は違うと思う。東日本大震災、台風による浸水、大雨の災害またはコロナ禍といった危機に対して、日本人は無理やり我慢し、何の文句も言わずに頑張り過ぎるのではないか。例えば最近、私が福島県で取材したお年寄りの夫婦は仮設住宅で8年間暮らした。冬の寒い福島県で8年間。信じられない。彼らは今、抽選で当たった狭い家に住んでいる。周りには知り合いはいない。お店もない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国、和平合意迫るためウクライナに圧力 情報・武器

ビジネス

米FRB、インフレリスクなく「短期的に」利下げ可能

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story