コラム

感染予防の邪魔をするイランの行き過ぎた「マッチョ信仰」

2020年03月07日(土)14時00分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)

日本人に見られるのは当事者意識の欠如 KIM KYUNG HOON-REUTERS

<未知のウイルスはマッチョ志向の丈夫な体にとっても重大なリスク――免疫力の過信は感染予防を邪魔する「大敵」だ>

COVID-19と名付けられた新型コロナウイルスがここ数週間猛威を振るっている。マスクはどこも売り切れだ。全世界のメディアがこれを取り上げているが、国ごとの対応はかなり異なっているようだ。

私が生まれたイランも数十人の学生のためにチャーター機を手配し、無事に武漢から帰国させた。われわれはこうした政府の危機管理をしっかり監視しなければいけないが、より重要なのは個人だ。

中東の人々は自らの免疫力を過信する傾向にある。これほど世界的に感染が広がるなか、マスクがなくてもあまり困っていない。先日、武漢からイランへ戻るチャーター機の映像を見たが、マスクをしていない人がちらほらいた。帰国者は一定の潜伏期間隔離されてから自由になるようだが、マスクに対する意識は低い。

同様のアイテムに傘がある。中東では傘がなくても困らない。特に男性はかなり強い雨でも傘をささない。マスクや傘は体を守るためのアクセサリーだと感じている人が多いのだが、それは弱々しいイメージがあるからだ。道具に頼るより自らの体を鍛えることを重視している。つまりマッチョ志向なのである。

健康を考えるなら、ヘルシーフードを選択したり、身を守る「アクセサリー」に気をもむより、スタミナがつくものを毎日食べて鍛えれば風邪にはかからないし病気にもならない、と言う人がたくさんいる。

丈夫な体でもウイルスはリスキー

長寿によいイメージがある和食だが、マッチョ志向の中東の人たちにとっては、コメや海藻の味噌汁、納豆あたりは「繊細な」食べ物と映る。万病をはね返す丈夫な体をつくるためには物足りない。ナンとバターとチーズとジャムとハチミツとクルミとぶどうを朝食にばっちり取ることが、健康の基礎と考えているのだ。

2012年に猛威を振るい、中東でもかなりの数の死者が出たMERS(中東呼吸器症候群)はどうだったのだろうか。未知のウイルスはマッチョ志向の丈夫な体にとっても重大なリスクのはずだ。

ただMERSがサウジアラビアを中心に猛威を振るった際も、イランには感染による死亡者は出なかった(とされている)。イランからサウジアラビアのメッカには、年間5万~9万人が巡礼に訪れるのだが、MERSの流行した時期も巡礼が禁止されることはなかった。政府の対策チームが巡礼に同行し、またハグや、頬と頬をすり寄せるチークキスの後で、もし具合が悪くなった場合は申告をとお達しは出たようだ。しかし、今回の日本のように街中で皆マスクを装着している風景は見なかった。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ大統領と電話会談 米での会談

ワールド

ネクスペリアに離脱の動きと非難、中国の親会社 供給

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い イ

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席へ ウ和平交渉重大局面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story