コラム

日本人の英語力強化に必要なのは入試改革だけじゃない

2020年01月09日(木)19時20分
李 娜兀(リ・ナオル)

HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN

<良くも悪くも予測可能なのが日本だが、英語の民間試験導入が土壇場で延期されたことは危機感の表れ。らしくないドタバタ劇からは「意識改革」も期待できる>

11月初めの朝刊1面のニュースにわが家は大騒ぎになった。といっても、秘密情報保護協定(GSOMIA)など日韓関係の話ではない。

2020年度に実施される大学入試での「英語民間試験を延期へ調整」という記事のことだ。まさに民間試験に向けた準備を進めていた高校2年生の長女は、遊びに来ていた同級生と2人で「これからどうなるの?」と顔を見合わせていたが、結局、延期が決まった。

最初に頭に浮かんだのは「日本らしくないな」ということだ。東京に住む外国人の友人たちとよく、「海外に行った後、日本に戻ってくるとホッとするよね」と話す。地下鉄は時間どおりに来て、道路の敷石はぴったり隙間なくはまっており、靴が引っ掛かることはまずない。何事にも用意周到な行政や企業のおかげで社会全体が安定していて予測可能、というのが良くも悪くも日本の特徴だと思ってきたからだ。

今回の文部科学省による突然の「延期」には、子供たちだけでなく高校の先生方も慌てたようだ。11月中旬に長女の学校で配布された入試準備の資料には、14ページにわたって赤く「×印」が付けられていた。英語の民間試験導入に関する部分だった。

新聞によると、「英語民間試験の活用は、グローバル化が進む中、英語の4技能を大学入試で評価する必要があるとして、文科省が17年7月に実施を決めた」(毎日新聞11月2日付朝刊)という。4技能とは「読む・聞く・書く・話す」のことだ。

確かにTOEICなどのテストで、ほかのアジア諸国と比較して日本の平均点が低いとか、大学ランキングで日本の大学の順位が落ちたといったニュースはよく目にする。文科省としても危機感を感じ、制度を抜本的に変えたいと思う理由は十分あるだろう。

ただ、私は語学教育の専門家ではないが、日本の大学で国際交流事業に関わった経験から、入試改革だけでは大して英語力強化につながらないのではないか、という気がする。

昨年秋から今年の春まで、都内の大学で留学生と日本人学生との英語ディスカッション・セッションの運営を担当した。英語は思うように口から出てこないが、懸命に話そうとする日本人学生が何人か参加してくれた。積極性が素晴らしく、こういう学生は数年後にはグローバルな舞台で英語を使って活躍するだろう、と思った。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 

ワールド

和平望まないなら特別作戦の目標追求、プーチン氏がウ

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story