コラム

電気自動車への移行を加速させるドイツ──EV革命のリーダーは、ドイツと中国に絞られてきた

2021年04月06日(火)16時00分

EV生産をめぐる中国の動向

一方、中国のスマートフォン大手Xiaomi(小米科技:シャオミ)は、VWが放ったジョークの配信と同日の3月30日に、新しいEV生産の子会社のために15億ドル(約1,660億6千万円)を投資していると発表した。今後10年で投資額は100億ドル(約1兆1千億円)と見込んでいる。

創設者兼CEOのLei Jun(レイ・ジュン)は、シャオミの車を「世界中の道路で走らせたい」と語っている。シャオミはアップルとサムスンに次ぐ世界第3位のスマートフォン・メーカーで、中国ではすでに何百ものテック企業がEVの世界有数の市場シェアを争っている。

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中国のスマートフォン大手Xiaomiの創設者兼CEOのレイ・ジュンは、2021年3月30日のローンチイベントで、Xiaomiの完全子会社の下でEV事業を運営し、初期投資額は100億人民元になると述べた。Xiaomiは、今後10年間で、合計で推定100億米ドルを投資することを約束している。レイ・ジュンは、スマートEV事業の最高経営責任者を兼務する。©Xiaomi

中国のEVは、上汽GM五菱から4,500ドル(約50万円)で販売されている宏光(Hongguang) MINI EVや、中国最大の自動車メーカーGeely(浙江吉利控股集団)が所有する新しい高級EVブランドZeekrまでさまざまだ。

海外メーカーも中国向けEVを市場に投入しようとしている。テスラはすでにモデルYを上海の自社工場から中国に販売していて、フォードはムスタングの電動バージョンを中国で製造する計画を立てている。

中国の他のテック企業は、EVの製造や、既存の自動車メーカーと提携して新しいEVを生産する意向を示している。検索エンジン大手のBaidu(百度)は、1月にEV事業を開始すると発表した。中国のeコマース大手Alibaba(アリババ)は、SAIC MOTOR(上海汽車集団)とEVの合弁会社を設立した。ハイヤー配車のDidi Chuxing(滴滴出行)は、自動車メーカーのBYD(比亜迪)と提携して、配車サービス専用に設計されたEVを製造している。

テスラ vs VW

テスラのCEOであるイーロン・マスクは、自動車産業全体にEV革命を引き起こすと言ってきた。テスラ株は2020年に659%上昇し、しばらくの間、その優位性に異議を唱えることは不可能であると思えた。しかし、今やEVは自動車産業だけでなく、あらゆるテック業界の革命をになっている。そして、VWにはテスラにはまだないものがある。それはスケールだ。テスラの50万台に対して、VWは昨年、930万台を販売した。

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ベルリンのショッピングモール内にあるテスラのショールーム。Model Xが展示されている。

現在VWは、多彩なEV車のグローバル展開を計画しており、VWは急速に世界一の座に上る可能性がある。他の伝統的な自動車メーカーも、テスラはもはやライバルではないとみなし、マスクの会社は、単に市場を開いた挑戦者としてだけ記憶されるかもしれない。

そもそも、世界初の実用EVは、1888年にドイツのコーブルクで、発明家アンドレアス・フロッケンによって開発された車両だとされ、ドイツはガソリン車だけでなく、EVでも世界を制覇する野望を抱いている。世界のEV革命のリーダーは、ドイツと中国に絞られてきた。

EV購入のための補助金制度

欧州連合(EU)各国で、燃焼エンジンを搭載した車を購入することは、唯一の選択肢ではない。EV車の需要は着実に拡大しており、国や州が用意する巨額の補助金により、購入費用は他に類を見ないほど安くなっている。EVは現在も比較的高価であるため、EUは補助金で購入を支援している。

ドイツでは、初めて登録された基本モデルの価格が65,000ユーロ(約846万円)を超えないEVの取得(購入またはリース)は、資金提供の対象となる。純粋なバッテリー式EVには最大9,000ユーロ(約117万円)、ハイブリッドEVには最大5,625ユーロ(約73万円)の資金が提供される。

保険料の3分の2は連邦政府が負担し、3分の1はメーカーが負担する。この補助金の増額(以前は、純粋なバッテリー式EVは4,000ユーロ、ハイブリッドEVは3,000ユーロだった)は、コロナの影響に対抗するための経済刺激策の一環として決定された。こうした手厚い補助制度にも関わらず、多くの人がEVに切り替えることを躊躇する大きな問題がある。それは、充電オプションの不足である。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

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