最新記事
BOOKS

9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山谷の「現在を切り取る」意味

2024年12月23日(月)06時45分
印南敦史(作家、書評家)

また、1985年に発表されたドキュメンタリー映画『山谷(やま)――やられたらやりかえせ』が誕生した背景と経緯をなぞり、前述した報道カメラマンの南條直子の短い人生を克明に追うなど、日が当たることのないこの街、そして、そこに生きる人たちの姿を描写する。

そこに映し出されるのはまさしく"流れ者"のリアルであり、だからこそ(私には同じような暮らしは自分はできないだろうなという思いが前提にあるけれど)「なるほどなあ」と思わせるものがある。


「ヤマから来た労働者ってのは、なぜだかその雰囲気で分かる。こう、背中を丸めてるような感じで、本人自身が使い捨てにされている、差別されているという思いがあり、その人をぎこちなくさせていたのかもしれない。この街には、いろいろな過去や重荷、言えない悩みを抱えた人がいて、周りからは冷たい目、現場では重労働、田舎では立場がないという人がやって来る。ただ、『自分は労働者だ』っていう誇りがあり、『働く仲間の会』っていうのをつくった。でもね、結局は呑んべえの会になっちゃったけど」(144ページより)

こう語るのは、第二次オイルショックの時代(1978年)から山谷に入ったという「玉三郎」。熊本の浄土真宗の寺院に生まれたものの寺を継がず、熊本、大分、沖縄、大阪と放浪し、28歳で上京したという人物だ。その道筋を見ても、行き場を失った彼を山谷が受け入れてくれたことを理解できる。

「山谷らしさ」が地域社会で求められているものなのか

なお、労働者の活気が満ちていたそんな時期の描写もさることながら、さらに印象的だったのは"現在"の山谷の姿だ。もう活気を失っているとはいえ、そこで生きていくことを決めた人、そういった人たちを支える人のあり方には納得させられるのである。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日米電話会談WSJ報道、政府が改めて一部否定 共同

ビジネス

EXCLUSIVE-中国2企業がベトナム5G契約獲

ワールド

トランプ氏、関税収入で所得税撤廃も

ビジネス

伊銀モンテ・パスキの同業買収、当局が捜査=関係者
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中