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「現代のネロ帝」...モディの圧力でインドのジャーナリズムは風前の灯火に

MODI’S UNFREE MEDIA

2024年5月23日(木)14時45分
アムリタ・シン(キャラバン誌編集者、ジャーナリスト)

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新しい農業法に抗議する農民のデモ隊(20年12月、ムンバイ) IMTIYAZ SHAIKHーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

ジャーナリストの役割に対する政府の考えは、一般市民にも浸透しているようだ。独立系ジャーナリストは自分の仕事をするだけで、しばしば「反国家的」などのレッテルを貼られ、非難にさらされる。

特に2期目のモディ政権では、ジャーナリストに対する市民の自警団的攻撃が見られるようになった。宗教対立を取材するジャーナリストが、怒った暴徒に脅されたり殴られたりした例が少なくとも数件ある。

アダニの件を報道したジャーナリストのパランジョイ・グハ・タクルタは、モディは政府批判を歓迎する発言を何度かしているが、「やっていることは正反対」だとフォーリン・ポリシー誌に語った。

国境なき記者団が発表する報道の自由度ランキングで、インドの順位は14年~24年の間に140位から159位に後退した。

政府はどうすれば順位を上げられるかを検討する委員会を20年に立ち上げたが、インドの順位は「現地の実情に即しておらず」、「欧米の偏見」の産物というのが同委員会の結論だった。「モディと支持者のこの態度は、インドにとって良くないと私は考える」と、タクルタは付け加えた。

ジャーナリズムは存続の危機

私がジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせた約6年前と比べても、仕事をすることで狙われる可能性が高まっていると感じる。キャラバンの同僚が殴られた事件が2度あり、1度は警察にだった。

21年初めには農業法に対する大規模な抗議デモを積極的に報道した後、キャラバンのツイッターアカウントが数時間アクセス不可になり、同僚の編集者は他のインド人ジャーナリストと共に扇動罪で告発された。

政府は今年2月、軍が尋問中にカシミール人を拷問・殺害した問題に関するキャラバンの詳細な記事に新たなIT規則を適用し、記事の削除を強要した。

だがインディアン・エクスプレス紙は4月、この尋問中に「将校を含む7~8人の行為に重大な過失があった」ことが軍の内部調査で判明したと報じている。

モディが今回の総選挙に勝って首相続投となった場合、報道機関への攻撃が増えないと思える理由はどこにもない。この業界はただでさえ低賃金で仕事も少なく、上流階級やエリートに忖度しているとして評判が悪い。

「独立した声」を攻撃の標的にする現在の傾向が続けば、ジャーナリズムという職業の存続可能性はさらに低下しかねない。

過去10年間、メディアの自由が損なわれたことはない──モディが堂々とそう語っても、疑問の声は上がらない。だから、インドに宗教差別はないとニューズウィークに語ったわずか数週間後、選挙集会の演説でイスラム教徒に「侵入者」のレッテルを貼ることができたのだろう。

マニプールの部族衝突、中国との国境紛争、選挙債などの問題は、健全な民主国家で報道機関がその役割を果たせば、国政選挙を左右する争点になり得る。だが大半のジャーナリストが権力に真実を突き付けなければ、こうした問題が有権者の関心を引く可能性は低い。

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