最新記事
インド

ヒンドゥー教寺院でモディが始める宗教戦争

Modi’s Temple

2024年1月23日(火)13時30分
マイケル・クーゲルマン(米ウッドロー・ウィルソン国際研究センター南アジア研究所長)
ナレンドラ・モディ首相 Amit.pansuriya-Shutterstock

ナレンドラ・モディ首相 Amit.pansuriya-Shutterstock

<破壊されたモスクの跡地に建てられたヒンドゥー教徒の新たな聖地が対立をあおる>

インド北部の古都アヨディヤ。古代の英雄ラーマ王子の生誕の地として知られる一方で、中世にはイスラム王朝の支配下にあったこの地が、いま再びインドにおける宗教対立の火種となろうとしている。

発端は、1月22日にナレンドラ・モディ首相を迎えて盛大な建立式典が行われるヒンドゥー教寺院だ。このラム寺院が建設された場所には、1992年にヒンドゥー教過激派に破壊されるまで、約500年にわたりモスク(イスラム礼拝所)があった。

【動画】ラム寺院の建立式典を訪れたナレンドラ・モディ首相

寺院建設の中心となったヒンドゥー至上主義組織「世界ヒンドゥー評議会(VHP)」の広報担当者シャラド・シャルマは、ラム寺院が「世界のヒンドゥー教徒にとって最大の聖地になる。われわれにとってのバチカン(カトリック教会の総本山)だ」と語った。

大論争を巻き起こす過激な措置を打ち出しては、反対意見に耳を貸さずに「公約実現」を貫き、与党・インド人民党(BJP)の支持者を満足させる──。これはモディが首相として過去10年間やってきたアプローチそのものだ。

インド最高裁判所は2019年、アヨディヤで破壊されたバブリ・モスクの跡地を事実上政府の管轄とする判決を下して、ラム寺院建設に道を開いた。同時に裁判所は、目立つ場所にモスク再建の手配をするよう行政に促した。

ところが地元当局が提案した再建場所は、バブリ・モスクがあった場所から約25キロも離れた僻地だった。資金的な支援もないため、建設工事は始まってもいない。

政教分離の慣例はどこへ

アヨディヤがあるウッタルプラデシュ州は、インドで最も人口が多い州で、モディの盟友ヨギ・アディティアナートが州首相を務める。ラム寺院は「文化、精神、社会の一致」の象徴になるとアディティアナートは言うが、実際には不一致を悪化させそうだ。

モディはこれまでにも現代インドの政教分離の慣例を破り、あからさまなヒンドゥー至上主義的な政策を取ってきた。その第一歩が、19年のカシミールの自治権剝奪だった。さらに同年の改正国籍法では、アフガニスタンやバングラデシュなどからの避難民に市民権を付与するが、「イスラム教徒でないこと」を条件とするなど、イスラム教徒排除を明確にしてきた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物は続落、WTI90ドル 米イランの交渉再開

ワールド

元NATO事務総長、英国防予算不十分とスターマー首

ビジネス

旭化成、カナダの電池材工場の稼働延期 北米EV市場

ビジネス

機械受注2月は13.6%増、2か月ぶりプラス 大型
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍の海上封鎖に中国が抗議、中国タンカーとの衝突リスク高まる
  • 2
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 3
    高さ330メートルの絶景と恐怖 「世界一高い屋外エレベーター」とは
  • 4
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 8
    トランプを批判する「アメリカ出身のローマ教皇」レ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中