最新記事
少子化

「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

NO HOPES FOR THE FUTURE

2024年4月18日(木)17時50分
木村 幹(神戸大学大学院教授)
「韓国少子化の不思議」失業率2.7%、若年層の経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

データ上は経済的に困窮していないはずの韓国の若年層だが XOSE BOUZASーHANS LUCASーREUTERS

<少子化の原因とされる若年層の生活不安はデータ上存在しない。ただ、国家が成熟して目標を失い、「漠然とした不安」が活力を奪っているのだ>

今から30年以上も前のことである。人生初の留学で暮らしたソウルの下宿には女主人がいて、日本にも行ったことがあるという。「印象はどうでしたか?」。そう尋ねた筆者に、彼女は不思議そうに言った。「日本にはね、街に子供がいないのよ」

言われるまで気付かなかったが、確かに当時のソウルには至る所に子供がいた。当時の子供たちが生まれた1980年代初頭の韓国の合計特殊出生率は2.0を超えており、逆に日本は1.7前後の数字で推移していた。

その差がそのまま街にいる子供の数となって表れていた。

しかし、今、ソウルの街に子供はいない。2000年代初頭に日本を下回った韓国の合計特殊出生率はその後も下がり続け、18年にはついに1.0を割り込んだ。そして昨年の数字は0.72。

数値としては異なるデータを使っている国連統計でも韓国の数字は主権国家中、最下位になっている。

この原因としてよく指摘されるのが、若年層をめぐる生活不安である。韓国では若年層の失業率が高く、雇用における非正規雇用の割合も多い。

このような状況では婚姻年齢も上がらざるを得ず、その結果、結婚を諦める人たちも増えている。今の韓国は結婚して子供を育てられるような国ではなく、だから少子化が進むのは当然なのだ、と。

newsweekjp_20240417022358.png

しかし、実際はそれほど単純ではない。

なぜなら他国と比べて、韓国の若年層が置かれた現在の状況が極端に悪いとは言えないからだ。OECDの統計によれば、23年の韓国の失業率は2.7%。

OECD諸国の中で日本、チェコに次いで3番目に低い。若年層に当たる15~24歳の失業率はこれより高い7.4%だが、この数字も38カ国中7番目に低い。

ちなみにアメリカは10.1%、フランスは18.5%、イタリアに至っては25.4%。今日の世界で、若年層の失業率が全体より高く出るのは多くの国で見られる現象なのだ。

目標だった先進国になった後

労働条件も同様である。同じOECDのデータで、21年の韓国における高校以上の学歴を持つ24~34歳の人々のうち、パートタイムあるいは年次契約で働く人の割合は世代人口の5%。

同年齢の労働人口に対しても7%にしかならないから、これも大きな数字だとは言えない。

給与面もことさらに悪いとは言えない。働き盛りの25~55歳の賃金に対する15~24歳の賃金の割合は、22年で40.4%。この数字もOECD諸国で上位に位置している。

国全体の格差を示すジニ係数は22年で0.324。日本とほぼ同程度であり、米英と比べるとかなり良い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

伊プラダ第1四半期売上高は予想超え、ミュウミュウ部

ワールド

ロシア、貿易戦争想定の経済予測を初公表 25年成長

ビジネス

テスラ取締役会がマスクCEOの後継者探し着手、現状

ワールド

米下院特別委、ロ軍への中国人兵参加問題で国務省に説
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中