最新記事
少子化

「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

NO HOPES FOR THE FUTURE

2024年4月18日(木)17時50分
木村 幹(神戸大学大学院教授)

加えて、彼らの雇用をめぐる状況は、近年急速に改善されている。韓国における15~29歳の失業率は、17年の9.8%をピークに低下し、23年には5.9%になった。

背景に存在するのは、朝鮮戦争が休戦した1953年から60年代前半までの、ベビーブーマー世代の一斉退職である。日本における90年代後半から00年前半の就職氷河期世代の就職難が、その後の団塊の世代の退職で一掃されたのと同じ現象だ。

こうして見ると、韓国の若年層をめぐる状況は決して悲観的ではない。とはいえ同時に、肝心の韓国の若い人々自身が将来に積極的な展望を見いだせないでいるのも、世論調査などから明らかだ。

かつてとは異なり、就職先はそれなりにあり、労働条件も徐々に改善されている。彼らはどうして強い不安を感じているのか。

重要なのは、「今」の状況よりも、彼らが有する「未来」への展望が悪化していることだろう。民主化と経済成長の結果、韓国は豊かで平和な社会になった。

だからこそ、他国と比べても、今の彼らの生活に関わる数字は遜色がない。しかし、それは彼らの未来が保証されていることを意味しない。以前の韓国の人々にとって、目指すべきは先を進む先進国の姿であり、それこそが彼らの目標だった。

しかし、自らがその先進国の1つとなった今、彼らは目指すべきモデルを見失っている。

高度成長が続いた時代、人々は今の生活が苦しくても、未来の生活に希望を見いだすことができた。明日は今日よりも良くなるに違いない、そういう期待を当たり前に持つことができたからだ。

しかし、現在の若年層はそうではない。経済成長の鈍化は将来に対する期待を暗いものとさせ、彼らは未来への積極的な投資を躊躇することとなる。それこそが、彼らが結婚を先延ばしにし、子供を持つことを拒む方向へと導く。

こうして生まれる少子化現象は、結果として韓国の人々の未来に対する不安をさらに加速させる。人口減少が続けば、韓国経済は縮小し、その未来像はさらに暗いものになる。

未来に対する希望の消滅が少子化をもたらし、少子化がさらに未来への展望を暗いものとさせる。韓国社会はこうした負のスパイラルに入りつつあるように見える。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィリピン中銀、政策決定発表を新方式に 時間30分

ワールド

マスク氏弁護団、オープンAIの要請を阻止するよう裁

ビジネス

三菱自、通期業績予想下方修正 関税影響見直しなどで

ビジネス

EUのCO2削減目標は実現不可能、自動車業界幹部が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 8
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 9
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中