最新記事
アルゼンチン

「中国との関係凍結」が公約のアルゼンチン新大統領、就任1カ月で売ったけんかと、その結果

PICKING A FIGHT WITH CHINA

2024年1月31日(水)20時45分
チアゴ・デ・アラガオ(戦略国際問題研究所〔CSIS〕上級研究員)
アルゼンチンのミレイ新大統領

アルゼンチンのミレイ新大統領 Denis Balibouse-REUTERS

<12月に就任したミレイ新大統領。早々に外相が台湾と接触、BRICS入りを白紙に戻したが...>

昨年12月に就任したアルゼンチンのミレイ新大統領が、外交面で急進的リバタリアン(自由至上主義者)らしい暴挙に出るまで、それほど時間はかからなかった。

1月15日に開幕した世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、ミレイはキャメロン英外相と会談。その際、1982年に両国の間で領有権をめぐる紛争が起きたフォークランド諸島の主権問題を蒸し返し、一蹴された。瀕死の国内経済の回復が急務であるときに、軍政時代の紛争をわざわざ持ち出すのは賢明とは言えない。

ミレイは、アルゼンチンの主要な貿易相手国である中国にもけんかを売った。地元メディアが12月末、アルゼンチンのモンディノ外相が台湾の駐アルゼンチン代表の謝妙宏(シエ・ミアオホン)と会談したと報じている。

台湾との接触は、ミレイが大統領選で公約に掲げた「中国との関係凍結」を実行に移す可能性があることを示唆している。彼は選挙戦で「共産主義」国家を厳しく批判。アルゼンチンが輸入の資金調達や債務の償還に当たり中国との通貨スワップ協定に大きく依存しているなかで、その姿勢は深刻な懸念を引き起こしていた。

ミレイが大統領に就任した直後、中国はこの協定を一時停止したと報じられている。

ブラジルやロシアなど新興5カ国でつくるBRICSへのアルゼンチンの新規加盟が前政権下で決まっていたのに、ミレイが白紙に戻したことも経済に大きな影響を及ぼす可能性がある。少なくともアルゼンチンは、BRICSの新開発銀行から資金を調達できなくなる。

「無政府資本主義者」を自称するミレイは、彼の言う「自由な世界」との関係強化を図っていくつもりかもしれない。だが外交や国際経済の複雑な状況に対応するには、もっと現実的でイデオロギー色の薄い外交的アプローチが必要だ。

事実、大統領就任から1カ月ほどの間に、ミレイは自分を政治的な失敗に追い込みかねない要素が2つあることに気付き始めている。「議会」と「中国」だ。

1月に入ってミレイは議会の反対を受けて、急進的な提案の一部を取り下げた。いかなる政治交渉にも妥協は必要であり、落としどころの見極めが重要だ。ただしミレイの場合は、見返りを得られるという保証なしに相当の譲歩をする勇気が必要だろう。

中国との関係については、緊張緩和を目指してモンディノが駐アルゼンチン中国大使の王衛(ワン・ウエイ)と会談。自分が台湾代表と会談したという報道を「誤解」だと否定し、さらにアルゼンチンが「一つの中国」の原則を支持することを改めて確認した。

ミレイ政権の姿勢の軟化には、財政面で結び付きの強い中国との関係を断つのは不可能だという認識が見て取れる。

食と健康
消費者も販売員も健康に...「安全で美味しい」冷凍食品を届け続けて半世紀、その歩みと「オンリーワンの強み」
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ナスダック連日最高値、アルファベット

ビジネス

NY外為市場=ドル全面安、FOMC控え

ワールド

米軍、ベネズエラからの麻薬密売船攻撃 3人殺害=ト

ワールド

米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行動なけ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中