最新記事
スーダン

アフリカの内戦が欧米の戦争へ...ワグネルの影も──スーダンの紛争に終止符を打つには?

A HORNET’S NEST

2023年7月21日(金)14時00分
フォラハンミ・アイナ(英王立統合軍事研究所研究員)
スーダン

停戦合意は繰り返し破られ、首都ハルツームでも爆撃が続く MOHAMED NURELDIN ABDALLAHーREUTERS

<内戦が地域の安定を脅かし利害を持つ各国の思惑が絡み合う。本誌「『次のウクライナ』を読む 世界の火薬庫」特集より>

東に紅海、南東でアフリカの角と接し、中央をサヘル地域(サハラ砂漠の南縁部)が東西に貫くスーダンで、4月中旬に国軍と準軍事組織の即応支援部隊(RSF)の戦闘が始まり、既に2000人以上の命が奪われた。スーダンでは2021年の軍事クーデター以後、国軍とRSFの権力闘争が続いている。首都ハルツームや西部ダルフールなどで激化している今回の戦闘も連鎖反応を引き起こし、地域の平和と安全保障に重大な影響を及ぼす可能性が高い。

スーダンの西隣のチャドはこの10年、スンニ派武装組織のボコ・ハラムやその分派のイスラム国西アフリカ州(ISWAP)などの壊滅的な活動に苦しめられてきた。その南に位置する中央アフリカ共和国も紛争が続いて政情不安が高まっている。西アフリカの沿岸諸国でも過激派勢力の攻撃が増えている。

スーダンでの衝突は、地域全体に小型武器や軽兵器を拡散させるだろう。北西部に隣接するリビアを含む新たな密輸回廊で、違法な武器取引が拡大するとみられる。問題をさらに複雑にするのが、紛争地域が広範囲にまたがるブルキナファソ、チャド、マリ、ニジェール、ナイジェリアなどの国境管理の甘さだ。

さらに、RSFを通じて外国人のテロリスト戦闘員が入り込む可能性もある。RSFの母体であるジャンジャウィードはダルフール地方とチャド東部を中心に活動するアラブ系民兵組織で、イエメンの内戦にも傭兵を派遣しているとみられる。

国軍とRSFの停戦合意はもろくも崩れた。本格的な地域戦争に発展する可能性もあり、中国、フランス、ロシアなど、積極的なプレゼンスを示して権益を維持している国々も一気に巻き込まれかねない。

懸念されるのは、地域で活動範囲を広げてきたロシアの民間軍事会社ワグネルだ。彼らが各地の反政府勢力に働きかければ、地域全体の緊張が悪化しかねない。一方で、情勢の悪化は、ワグネルのような組織に「専門的」な支援を求める地域の独裁者をつけ上がらせるかもしれない。

スーダンでの戦争はスーダンだけのものではない。22年2月にフランス軍はマリから撤退して主力部隊をニジェールに移した。フランスがサヘル地域で安全保障上の利益を追求する戦略的価値を考えれば、スーダンの崩壊を黙って見ていることはできない。

やはりこの地域に利害を持つアメリカ、イギリス、EUも同様で、国際貿易を保証するためにも地域の安定を確保する必要がある。ロシアと中国の政治的・経済的冒険主義を考えればなおさらだ。

経営
「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑むウェルビーイング経営
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、反ユダヤ主義助長と豪首相を非難 ビ

ビジネス

インタビュー:プライベートデット拡大へ運用会社買収

ワールド

ウクライナのNATO加盟断念、和平交渉に大きく影響

ワールド

米ブラウン大銃撃、当局が20代の重要参考人拘束
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中