最新記事
カフカス

ロシアの「裏庭」での支配力が低下...ナゴルノカラバフでの衝突が示す新たな局面

CAUCASUS POWER SHIFT

2023年7月19日(水)13時00分
マット・ワトリー(元EUジョージア停戦監視団責任者)
アルメニアの軍用墓地

紛争の戦死者が眠るアルメニアの軍用墓地 ARTEMMIKRYUKOVーREUTERS

<ウクライナ戦争の出口が見えないなか、ナゴルノカラバフに新たな動きが。本誌「『次のウクライナ』を読む 世界の火薬庫」特集より

カフカス地方南部は、ロシアが影響力を振るってきた「裏庭」。だがウクライナ戦争に力を注いでいる間に、すっかり手が回らなくなっていた。4月11日、この地域のアルメニアとアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフで、両国軍が衝突した。ナゴルノカラバフは、1994年の第1次ナゴルノカラバフ紛争終結から26年間、アルメニア軍が占領していた。国連憲章ではアゼルバイジャン領とされているが、アルメニア系住民が多数を占めている。

 
 
 
 

ソ連が崩壊に向かっていた88年、ナゴルノカラバフのアルメニア人がアルメニアへの編入を要求。91年に分離派がアルメニア政府を後ろ盾に「ナゴルノカラバフ共和国」の樹立を宣言したが、承認した国はなかった。2020年の第2次紛争では、アゼルバイジャンが領土の大半を奪還し、ロシアの仲介で停戦合意した。

この停戦は、正式な和平合意の道筋をつくるためとされた。だが多くの専門家は、アルメニアと同盟関係にあるロシアがあくまで「停戦」を望んだとみている。和平条約を結べばアゼルバイジャンに有利なものになるのは確実で、ロシアが平和維持部隊を駐留させ続けて影響力を行使することもできなくなる。

4月の衝突は、ロシアがこの地域への支配力を失いつつあることをはっきりと示した。この流れを食い止めようと、ロシアは平和維持部隊の新司令官にアレクサンドル・レンツォフ将軍を任命。チェチェン共和国や南オセチアでの経験も豊富なレンツォフの起用は、ロシアがカフカスの支配権奪還に真剣になっている証拠だ。レンツォフが策を巡らせて事態を混乱させる前に、西側諸国は和平交渉を推し進める必要がある。

まず、ナゴルノカラバフはアゼルバイジャンの領土だとアルメニアに認めさせなくてはならない。アルメニアのニコル・パシニャン首相は最近、アゼルバイジャン領と認める用意はあると発言しており、和平への最大の障害が取り除かれるかもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中