最新記事

軍事

ウクライナのどさくさに紛れて「侵攻」を狙う、もうひとつの旧ソ連の国

THE OTHER EX-SOVIET HOTSPOT

2022年5月11日(水)17時06分
トム・オコナー(本誌中東担当)
アゼルバイジャン

双方が相手の停戦合意違反を主張(ナゴルノ・カラバフの停戦合意1周年を祝うアゼルバイジャン軍、2021年11月) AZIZ KARIMOV/GETTY IMAGES

<アルメニア系住民が多数暮らす「ナゴルノ・カラバフ」の領有権をめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの対立。世界の関心がウクライナに向くなか、こちらも衝突危機が>

ウクライナ戦争が3カ月目に突入するなか、カスピ海と黒海に挟まれた南カフカス地方ではロシアの同盟国であるアルメニアが隣国アゼルバイジャンの動きに神経をとがらせている。両国の国境地帯では今年3月に小規模の衝突が発生。アルメニア側は自国の兵士少なくとも2人が死亡したと発表した(後に死者は3人であることが判明)。

ロシアやウクライナと同じく、アルメニアとアゼルバイジャンはいずれも旧ソ連の共和国。両国の間に横たわる山岳地帯のナゴルノ・カラバフの帰属をめぐり、長年にわたり紛争を繰り広げてきた関係性も似ている。直近では2020年9月に紛争が再燃。44日間にわたる戦闘で、民間人を含む多数の死者が出た。

ナゴルノ・カラバフはロシア革命後にアゼルバイジャンに編入され、ソ連時代にはアゼルバイジャン共和国内の自治州だったが、アルメニア系住民が多く住む。アゼルバイジャンからの分離独立を主張してきたアルメニア系住民はソ連崩壊後、「アルツァフ共和国」として独立を宣言。ただし他国の承認はほとんど得られていない。

20年の紛争を終結させた停戦合意で、この地域の多くはアゼルバイジャンに返還され、アルメニア領内に残された一帯にロシアの平和維持部隊が展開することになった。

ロシア軍がウクライナ東部の制圧に総力を挙げる今、アゼルバイジャンが残る一帯の奪還を目指して本格的な攻撃を仕掛けてくるとみて、アルメニア側は警戒感を募らせている。

「私が話している間にも、アゼルバイジャン軍がアルツァフでアルメニア兵を殺している」。本誌にそう訴えたのは、アルメニアの国会議員、イク・マミジャニャンだ。

アゼルバイジャン軍の最近の攻撃は20年11月に成立した停戦協定に「明らかに違反する」と、マミジャニャンは言う。「われわれはそもそもこの協定に満足していないが、彼らはそれさえも破った」。アゼルバイジャンはロシアがウクライナと戦っていることに「付け込んで」、その隙に攻撃を開始したというのだ。

3月に起きた衝突についてアルメニアが発表を行った当初、アゼルバイジャン側はこの発表には「意図的な誇張」があると主張していた。

だがロシア国防省がアルメニア領内のロシアの平和維持部隊の駐留地域にアゼルバイジャン軍が侵入したと発表し、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相がアルメニアのスレン・パピキャン国防相、アゼルバイジャンのザキル・ハサノフ国防相とそれぞれ電話で話し合ったため、アゼルバイジャン側も衝突が起きたことを認めざるを得なくなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中