最新記事

軍事

ウクライナのどさくさに紛れて「侵攻」を狙う、もうひとつの旧ソ連の国

THE OTHER EX-SOVIET HOTSPOT

2022年5月11日(水)17時06分
トム・オコナー(本誌中東担当)

本誌の要請で在米アゼルバイジャン大使館が公開した同国国防省の声明は「違法な分離独立派の武装集団のメンバーがわが国の陸軍部隊に妨害工作を行おうとしたが、(わが軍の反撃に遭い)撤退を余儀なくされた」と述べている。

またこの声明は、ロシアの発表はアルメニア側に肩入れしたもので「事実を反映していない」と主張。アルメニア軍は今もアゼルバイジャン領内に居座っており、「停戦協定に違反しているのはわが軍ではなくアルメニアのほうだ」と断定している。

3月の衝突は小競り合い程度で終わったが、多くのアルメニア人はこの程度では済まないとみている。「ウクライナ危機と同時期に衝突が起きたのはただの偶然ではない」と、アルメニアの国会議員、クリスティン・バルダニャンは言う。

アゼルバイジャンはロシア軍がウクライナ侵攻に手間取っている今を好機とみて「武力でアルツァフからアルメニア人を追い出し、アルメニア人が父祖の地で暮らす権利を奪おうとしている」と言うのだ。

「トルコも重要なプレーヤー」

バルダニャンによれば、アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフに住むアルメニア系住民にさまざまな嫌がらせをし、最近では生活インフラまで断ち切っているという。

「ナゴルノ・カラバフにいる約12万人の住民は日々テロまがいの嫌がらせを受けている上、今ではガスも電気もインターネットも使えない。民間人もしばしば銃撃され、家から出て行け、さもなければ武力で家を占拠するぞと脅されている」

この紛争にはもう1つ重要なプレーヤーが絡んでいると、バルダニャンは指摘する。アルメニアはロシア主導の軍事同盟・集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟しているが、アゼルバイジャンが頼りにしているのはトルコで、政治、文化、軍事的に密接な関係を保っているという。

バルダニャンによれば、ウクライナ軍が対ロ攻撃に使用しているトルコ製の滞空型無人戦闘機バイラクタルTB2は、アルメニア軍の陣地に対するアゼルバイジャンの攻撃にも使われ、威力を発揮している。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナへの攻撃を開始する2日前の2月22日に、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領と会談して「同盟的協力宣言」に署名した。安全保障や軍事、政治分野での協力を強化して、両国の関係を新たな「同盟」に格上げしようとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中