最新記事

アルメニア

アゼルバイジャンとアルメニアの軍事衝突はなぜ一大事か

Why You Should Care About the Escalating Nagorno-Karabakh Conflict

2020年9月30日(水)17時55分
デービッド・ブレナン

この2人の戦いになる可能性も(今年3月、ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領) Pavel Golovkin -REUTERS

<アゼルバイジャンとアルメニアの領土をめぐる地域紛争は、拡大すればロシア、トルコ、イラン、アメリカを巻き込む地雷原だ>

アゼルバイジャン西部の山岳地帯ナゴルノ・カラバフで9月27日、紛争が再熱した。激しい戦闘で死者はすでに100人にのぼっている。この地域の支配権を争うアゼルバイジャンとアルメニアの対立は数十年前からくすぶり続け、断続的に起きる武力衝突や暴力的な事件で多数の犠牲者が出ている。

ナゴルノ・カラバフ地域は国際的にはアゼルバイジャンの一部として認められているが、居住者の多数を占めるアルメニア人はアルツァフ共和国として独立を宣言し、実質的に地域を支配している。

アゼルバイジャンとアルメニアは1988年から94年にかけてこの地域をめぐって激しく対立し、戦争状態にあった。ソ連崩壊直後にナゴルノ・カラバフのアルメニア人勢力は、アゼルバイジャンからの独立を一方的に宣言した。

map20200930.jpg

dikobraziy-iStock

この紛争の主役は比較的小さく、比較的貧しい国だ。だが人口290万人のキリスト教国アルメニアと990万人のイスラム教国アゼルバイジャンは、ヨーロッパとアジアを結ぶ戦略的に重要な「コーカサス回廊」に位置し、ロシア、トルコ、イランといった大国と国境を接している。

これまでのところ、戦闘は主に15万人が住むナゴルノ・カラバフに限定されている。だが、戦闘が拡大すればアルメニアの公式軍(すでに動員されている)が出動し、アゼルバイジャンとアルメニアの本格的な戦争につながる危険がある。

トルコはすでに戦闘態勢か

この地域紛争には、地政学的、経済的、文化的な要因から、諸外国が深く関係している。今回の軍事衝突は2016年以来最も深刻なものであり、この地域の2つの大国トルコとロシアを対立に引き込む可能性がある。

アゼルバイジャンが最も近い味方として頼りにするのはトルコだ。同国の主要民族であるアゼリ人はトルコ系の民族で、イスラム教シーア派が多数派を占める。トルコの歴代政府、特にレジェップ・タイップ・エルドアン大統領の政権はアゼルバイジャンを熱心に支援してきた。アゼルバイジャンと共同でエネルギープロジェクトも進めている。

エルドアンはアゼリ人を支持すると誓い、ナゴルノ・カラバフの「占領」を終わらせるべきだとアルメニアに要求した。エルドアンは28日、紛争に終止符を打つ時がきた、と語った。

一部には、トルコは戦闘に直接関わっているという声もある。未確認の報告によると、トルコはナゴルノ・カラバフでの戦闘に備えてシリア人傭兵を配備した(シリアとリビアでも同じことをしている)。また、トルコの無人機や軍用機、軍事顧問がアゼルバイジャン側の最前線に派遣されているという声もある。

アルメニア外務省のアンナ・ ナグダリアン報道官は29日のツイートで、トルコがアゼルバイジャン軍に「積極的に関与し、政治的、そして軍事的に支援」をしていると非難した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

全米の大学でイスラエルへの抗議活動拡大、学生数百人

ワールド

ハマス、拠点のカタール離れると思わず=トルコ大統領

ワールド

ベーカー・ヒューズ、第1四半期利益が予想上回る 海

ビジネス

海外勢の新興国証券投資、3月は327億ドルの買い越
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中